「最初からこっちに向かっていたのか?」 「はい。入り組んだ道を入り、追尾をかく乱しようとしていましたが、最初から逃げた方向はこちらでした」 「そう、か……邸内の監視カメラの解析はどこまで進んでいる?」 「まだかかりますね。元データが飛んでますから……」 「…………分かった」 キサカは決断した。強い意志を瞳に持ち、室内を眺め、言い放つ。 「追跡班、映像解析で代表の行方を捜索する。広報・外務人員は、事が公にならないよう配備を。残りはすぐ動けるよう待機を」 「――っと待てよ! ここで待ってろってのか?!」 堪らず、ディアッカが声を上げた。 キサカは下手に動かない方が良い、と判断した。間違ってはいないだろう。賢明な判断にも思える。 けれど、こうしている今もミリアリアは恐怖で震えているというのに……自分だけ安全なところで報告待ちなど、耐えられなかった。 「俺は行くぜ」 「ディアッカ、お前……」 「俺はこの国の人間じゃ無ぇ。ジュール隊の一般兵だ。行かせてもらうぜ隊長」 「――俺も行く」 出て行こうとするディアッカに、アスランも続いた。 彼も、心情はディアッカと同じである。でなければ誘拐直後、我を忘れて走って追いかける――なんてことはしなかっただろう。 「お――……私は代表のボディーガード。本来なら追跡班に入っている人間です。これから現場に向かっても、問題は無いでしょう?」 「……そうだな、アレックス・ディノ」 「ありがとうございます」 快諾され、アスランはキサカに一礼する。 しかし、イザークはそれを良しとしなかった。 「いや、待って下さい。あいつを現地に向かわせるのは危険かと……お前もだぞディアッカ! 確かにお前は俺の部下で、キサカ殿の命令の対象外だが――」 そこまで言って、ディアッカとアスランを見て――イザークは言葉を失った。 二人が居たであろう所を見て。 最初はキサカに向かって言っていたので、気付かなかった。目に入らなかった。 キサカが了承したことで、アスランも、そしてディアッカも、本部を飛び出していたことに。 イザークは、烈火のごとく怒った。 「……あのバカ供があっ!!」 「あいつら、隊長のお言葉の途中で!!」 シホも怒った。 イザークがしゃべっている途中で席を外すなど――彼女の中では――言語道断だ。 「キサカ殿、部下は好きに使って下さい。私も現場へ向かいます!」 「え?! 隊長もですか?!」 「奴らだけで行かせられるか! あれだけ頭に血が上ってるんだぞ? 万が一にも犯人見つけたりしてみろ……半殺しじゃすまんぞ?!」 つまりイザークは、自分から子守役をかって出たのである。 ――性格上、一番暴走しやすい人間なのに。 「……それもそうだな。イザーク殿、うちのボディーガードをよろしく頼む」 「もちろん。……ああ、そうだ。シホ!」 「はっ!」 呼ばれたシホは、小走りでイザークの元へ。すると彼は、シホの耳元で何かを囁いた。 「頼んだぞ」 「はっ!!」 ピッと敬礼し、イザークを見送る。 直後、 「隊長に耳打ちされちゃったあぁ!!」 対策本部では、嬉しさのあまり、バシバシと仲間を叩き倒すシホが見られたという…… |