しかし向かった先で、警備職員が苦い顔をした。 二人は中に入れないと言わんばかりに、カガリ達の前に立ちはだかる。 「あの、代表……そちらの方は手続きをしないと……」 「堅いことを言うな。私もいるしSPもいる。……今だけ、大目に見てくれ」 「ですが……」 呻き、右側に立つ若い職員が腕時計を見る。 「許可書の件は、私が責任をとる。それで問題ないだろう?」 「しかし……」 「……分かりました。代表権限ということなら」 「良いんですか? 先輩!」 「言い出したら聞かない方だ」 左側に立つ、どこか熟練した雰囲気を醸し出す職員は、言いながら首を振り、一歩左によける。仕方ない、とため息をつき、若い職員も道を開けた。 「すまないな。ありがとう」 「もったいないお言葉です」 彼らのやり取りを見、ミリアリアはとても申し訳ない気持ちでいっぱいになった。その気持ちだけでも伝えようと、すれ違いざまに会釈をする。 残念ながら、二人の表情を読み取ることは出来なかった。今度、改めて謝りに来ようとミリアリアは思って。 「もう閉門時間です。正門は鍵をかけますので、お帰りは裏口をご利用下さい」 「……そうか、もうそんな時間か」 後ろで行われる会話、そして鍵の閉まる音を聞きながら、ミリアリアはカガリに手を引かれるまま、歩いていた。 着いたのは、ベンチのある庭。そこでカガリは、ついて来ようとするSP達を手で制した。 来るな――と。 「……カガリ」 「ミリアリアと二人で話がしたいんだ。頼む、ア……レックス」 カガリ直々にそういう態度を取られては、それに従うしかない。仕方ないので、遠すぎず近すぎず、目の届く範囲から護衛にあたることにする。 「ほら、座ろう」 「……うん」 昼間と同じ、二人きりの空間。 ベンチに座って、空を見上げる。 「……さっきの秘書さんに、悪いことしちゃった」 「秘書? ああ、ウームか?」 「見たこと無い人だったから、もしかして不審者? とか」 「仕方ないだろ、こんな時間でこんな場所で、お互い議事堂は良く知ってるけど本人同士は知らない人間。怪しむのは当然だ」 カガリは腕を組み、ふんぞり返る。 「いつからいるの? あの人」 「今月から……いや、正確には昨日だな。秘書を一人増員することになったんだ」 「増員?」 「私の仕事も多くなって、秘書たちへの負担が大きくなってしまって。あいつ、公邸で経理部長だったんだよ。仕事も良くできると評判で、無理言ってこっちに来てもらったんだ」 「そっか……」 それは本当に、悪いことをしたと反省する。 怪しくも何ともなかった。むしろ自分の方が怪しすぎる人間ではないか。 「警備の人達にも、迷惑かけてるし」 「あいつらは平気だ。ハンク――あ、さっきの二人組の、年取った方な。あいつも、私の性格をよく知っている。今頃、後輩に「カガリ・ユラ・アスハ」とはどんな人物か、勉強会でも開いているさ」 「そんなにカガリのこと知ってるの?」 「子供の頃、よく遊んでもらったからな」 その頃を思いだしているのだろうか。カガリは柔らかくはにかんだ。 そして――表情を締める。 「じゃなくて、お前だお前」 「え?」 「何があったんだ?」 話題が、元に戻る。 すなわち、ミリアリアのこと。 なぜ一人で議事堂前にいたのか。ディアッカと一緒にいるはずの彼女が、どうして「一人」でいるのか。 「……ちょっと……ね」 どう話せば良いだろう。 すっぽかされて、怒った。でも、それだけじゃない。 悲しかった。 悔しかった。 嫉妬した。 いろんな感情が混ざり合っていて。 「えっと、ね……ちょっと、上手く話せないかもしれないんだけど……」 悩みながら、ミリアリアは口を開き―― ――瞬間、異変に気がついた。 [〜事件〜] |