それから三十分後。

「……とゆーわけで遅刻しました」
「ふぅん」

オープンカフェにて、こんなやり取りが交わされていた。

片や、ジュース片手につまらなそうに。
片や、テーブルに手をつき、頭を下げて。

あれから三日。二人はもう一度待ち合わせをすることにした。こんな大層な事件に巻き込まれ、事情聴取やら怪我人の発生やらで、ジュール隊が、一週間の有給休暇をもらえたおかげである。

今度は昼間から、オーブで人気のオープンカフェで。
なのに、性懲りもなくディアッカは遅刻した。
三日前と、ほぼ同じ理由で。

「まあ、お見舞いなら仕方ないけど……」

それでも、面白くないものは面白くない。

「俺、あいつに嫌われてるからさ。どうしても喧嘩腰になるんだよな」
「嫌われてる? 何で??」
「俺――ザフト裏切ってるから」

ハッとして、ミリアリアはディアッカを見る。

「お前が困るところじゃねーだろ」
「でも」
「大袈裟に考えるなって。ザフトよりも、イザーク裏切ったって方が面積でかいから」
「イザークさんを?」
「あれは裏切ったって気はなかったんだけど……他人から見れば、裏切ったように映るだろ? 友人で、同じ隊に属しながら、あいつと戦うことになるって分かってるのに離反したんだから。
 イザーク狂信者のシホとしては、どうにも許せないことらしいんだよな」
「……そっか……」

難しい問題である。
信念を持って取った行動で……裏切るつもりはなくても、結果的に裏切り行為に等しい状況に陥ってしまうのだから。

「……平和、よね」

ふと、ミリアリアが呟いた。
この国の、二人の目の届く世界だけは、とても平和だ。戦争により、大地を焼かれた国とは思えない。
見えるところにない、大きな傷を、みんながみんな、抱えている。

ミリアリアは思う。
今こうして、ディアッカと会話できることも、すごく幸せなことなのではないか、と。

「……ディアッカ」
「ん?」
「助けに来てくれて、ありがとう」
「え――」

突然紡がれたのは、感謝の言葉。
彼女は極上の微笑みを浮かべ、ディアッカの手に触れる。

「嬉しかったよ、ディアッカが来てくれて」
「……ミリアリア……」


平和をかみしめ、幸せをかみしめ。


「でも、今度遅刻したら許さないからね」
「……はい」

微笑みの中に隠された狂気を見い出し――ディアッカは小さくうなずくことしか出来なかった。




-story end-


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