不機嫌極まりない顔で、ベッドに座るシホがいる。
そこはオーブで一番大きな病院の一室で、その中でも一番立派な、まさにVIPクラスが使うであろう個室。

「お前も、目立たない所で大怪我すんなよなー」
「好きでこうなったんじゃないわ」

何よりディアッカに見舞われていることが、悔しくてしょうがないように思える。

「まさかあんな所で銃撃戦なんて、考えてなかったのよ」

イザークの命を受け、議事堂に残ったシホに与えられた任務……それは、秘書の一人、ダニア・ウームを見張ることだった。
ウームには、以前から公金横領の疑惑があった。経理から秘書に異動となったのを期に精査したが証拠は全く出てこない。そんな折、議事堂で働く職員から、「ダニア・ウームから『以前、マズル家で働いていた』ことをネタに脅された」なんて通報も入ってくる始末。その職員は「バラしたいならバラせば良い」と一蹴したが、脅しが職員一人で済んでいない可能性もある。
ゆえに三日前、キサカは「資料整理」と称してウームを呼んだのだ。
内実は、彼を尋問するために。その期をうかがって。

そうしたら、カガリが誘拐された。
タイミング的にも、横領や恐喝といった事件発覚を恐れたウームが、誘拐の主犯と考えたのである。

すると彼は、たった一人で行動を始めた。

向かった先は――首長室。そこでおかしな行動を取るウームに不審なものを感じ、シホは内部に突入。そこで彼女は、今まさに、ウームが『横領』の物証を机に隠そうとする場面に遭遇した。
ケイマが物証隠しを頼んだ相手――それが彼だったのである。
実際の所、カガリに押し付けられそうになっていた『横領』は全てウームが行なっていたもので、それを偶然知ったケイマが、半脅し状態で、彼を仲間に引き入れた……と言った方が正しいか。

「さすが小者、臆病な割にやることでかいわ」
「それ、褒めてないって」
「あーっ! 思い出しても腹が立つー!!」

ぼすんっ!

悔しさからシホは、拳を布団に入れた。
何せ訓練を受けた軍人が、戦いの素人に怪我をさせられてしまったのだから。
あの時、ウームは――銃を所持していた。カガリに罪を着せようとした現場を発見され、驚いたウームはシホに発砲。いきなりのことで、さすがのシホも対処することは出来なかった。
その身に受けてしまう数発の銃弾。それでも、人を撃った恐怖から逃げようとするウームに一撃を入れ、捕獲したのはさすがというか、なんというか。

「ったく……イナミって秘書が銃声に気付かなかったら、お前今頃あの世行きだぞ?」
「まあ確かに、あの人、とんでもなく良いタイミングで来たわね」

反論は無い。
彼女だって、自分がどれだけ大変な状況だったか分かっている。昨日まで――面会謝絶状態だったのだから。
なのに、すでに起き上がって話もしている。大した回復力の持ち主だ。

「これからはもっと慎重にいけよ。イザーク、かなり心配してたからな」
「隊長が?!」

途端にシホは、瞳を輝かせた。

「隊長が私のこと、心配してたの?!」
「お、おお……後から、見舞いにでも来るんじゃねーか? 花はどこで買えば良い? とか聞かれたし」
「隊長が私に花を……!!」

両手を組み合わせ、明後日の方を見るシホの姿に、たじろぐディアッカ。
もじもじしているだけなのに、恐ろしいまでの威圧感を感じるのはなぜだろう。

「ところで、『ミリィ』には言ってもらえたのかしら」
「何を?」
「……ごめんって……」
「…………ああ」

今度はディアッカが、遠い空を眺めた。
その態度が物語っている。
……言ってねーなー……と。

ディアッカが待ち合わせに遅れる原因を作った自分からも、一言謝っておきたくて。
でも……もしかしたら、面と向かって言うことは出来ないかもしれない。だからこそ、不本意ながら、ディアッカに『伝言』を頼んだと言うのに。

「ちょっと! 何で言ってないのよ!!」
「言う暇がどこにあるよ!! 現場解散後、今日初めて会うってのに――」

言って――ディアッカは固まった。
ちょうど、病室に備え付けられているテレビから時報が鳴り、新しい番組が始まる。
画面に映るカガリ。
正午から始まる、国家元首の会見映像である。

「今日、会うのよね?」
「……ああ」
「待ち合わせ時間は?」
「……昼、十二時ジャスト」

ディアッカの全身から、冷たい汗が流れた。

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