「ちょ、ちょ、ちょっ……ディアッカ! 私、歩ける!!」
「また転んだらどうすんだよ! ほら、口閉じろ! しゃべってると舌噛むぞ!!」
「って――」

構わず文句を言おうとするミリアリアを無視し、ディアッカは走り出す。天井からの落下物を巧みに避け、床に散らばる残骸に足を取られることも無く。何より滞空時間が長いのか、MSの生み出す振動を、それほど感じない。
顔を上げれば、真剣な横顔がそこにある。ミリアリアは思わず見入ってしまった。
こんなに間近でディアッカの顔を見るのは、初めてかもしれない。
一方ディアッかも、一番近くにあったアストレイの脚部分まで走った所で、きょとんとミリアリアを見た。
彼女もまた、凝視し返す。

「……何?」
「いや……急に静かになったから……本当に舌でも噛んだかなーと」
「そんなわけないでしょ!」

怒るミリアリア――そして、

《みんな、物陰に隠れてて!!》

どこからか、キラの声が響いた。同時に一機、側のMSが動き出す。
キラが乗り込んだ機体だろうそれは、出力を最小限にし、下にいるディアッカ達へ極力被害の出ないように、それでいて素早く、腕を振るった。それはケイマが暴走させる『ブラックフレーム』の腕を捕らえ、動きを制する。
ディアッカはミリアリアを離さず、脚部を風除けにし、吹き飛ばされそうになるのを必死に耐えた。

《もう止めろ! これ以上は――》
《うるさいっ!!》

動けなくなったケイマの、悲痛な叫び声が響く。
彼が抱き続けた、本音が。

《終わらせてたまるか! あいつは、ただ『死んだ首長の娘』ってだけで代表になれたんだぞ?! 大した能力も無いのに、ただ『娘』ってだけで!!》


誰もが。
誰もが息を呑んだ。


彼女は今、苦しみを抱えている。
争いの絶えない世界で、平和を築こうとする強い思いを持ちながら、理想を現実のものに出来ない葛藤……

「ザコの戯言だ。気にするな」
「…………」

珍しく――イザークが、他人を励ます言葉を使った。
腕の中、肩を震わせる少女へと。

カガリは、はっきりと感じ取っている。
自分に力が足りない……と。
言い返せる言葉はない。しかしそれでも何か――何かケイマに訴えたくて、悲しげにMSを見上げた、その時だ。

――しゅおんっ。

突然、機体の音が止んだ。
止められた――とでも言うべきか。
ようやくアスランが、自分の仕事を果たしたらしい。

MSは強制停止させられ――ほどなく、ケイマはアスランによって捕獲されるのだった。


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