議事堂を後にしたミリアリアは、街中を少しぶらついて、一軒のオープンカフェに入った。適当に座り、飲み物を一つだけ注文する。頼んだオレンジジュースは、二分とかからずやってきた。
ストローを口に、街頭テレビに目をやる。
四面からなる巨大モニタ。そこに、正午を知らせる鐘の音と、ニュース映像が流れ出す。
そこには、首長服に身を包む、カガリの姿があった。
それは、正午より始まる、事件についての釈明会見――



かの誘拐事件は、ケイマが捕まったことで、ようやくその全貌が見ることになった。



彼がこんな事件を引き起こそうとした原因は、カガリが国家元首の地位についた事がきっかけだったらしい。テレビで演説するカガリを見て、彼の中で、静まっていた『アスハへの復讐心』に火がついてしまった。
爵位剥奪の後、親交のあったセイラン家に取り入り、カガリつきの秘書という立場を得る。そして彼女の側で、時を窺っていたのだ。


復讐の時を。


彼が考えたのは、カガリ本人による狂言誘拐説――

公金に手を出していたカガリが、それだけでは満足できなくなり、とうとう自分の家から巨額の資金を引き出す、という設定である。
しかし、GPS機能を持つ携帯を常備しているカガリの居場所はすぐに判明し、屋敷の中に軍隊が突入。その間に、武装兵達はカガリを見限って逃走する。
軍が無人の屋敷の中を調べる内に、カガリが私物のMSを製造していた上、連合に軍事機密を流し、利益提携しようとしていたことが判明。不審に思った調査官がカガリの自室を調べると、公金に手を出し、MS製造の資金源にしていた――という、何ともお粗末なシナリオを立てていたのだ。

だが……初っ端からカガリが携帯を落とす、というアクシデントにさいなまれ、ケイマは自ら動かなくてはならなくなった。
自ら横領の物証を忍ばせようとしていたケイマは、それを『仲間』に託し、現場に向かう。
捜索班に入り込みさえすれば、後は『不審車』を追って辿りついたフリをすれば良いのだから。

しかし、仲間からは、物証を忍ばせた――という報告が来ない。
その内侵入者=アスラン達が、文字通り突入してくる。
失敗した……ケイマはそう感じ取った。

だから逃げようとしたケイマは、どうせなら『ブラックフレーム』に乗って、かっこ良く退散してやろうと考えたのだが……それが、そもそもの間違いで。

MSは、素人が簡単に操れるものではないのだから。


〈大丈夫かな、カガリ……〉


三日ぶりのカガリは……心なしか、やつれたように見える。
解放された後、別れるまで、彼女に笑顔は無かった。
誘拐され、しかも信じていた人間から裏切り行為を受けたショックもあるだろうが……とどめはきっと、ケイマが放った最後の一言。

彼が、『ブラックフレーム』の中から叫んだ本音――

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