「……な……!!」

キラは息を呑んだ。ミリアリアも、動くことが出来ない。
目の前にたたずむ幾つものMSの形状は、M1アストレイそのものだ。
違うのは一点、彩色のみ。
それには、恐ろしいほど深い、闇の色が使われていた。

「アストレイシリーズに、黒なんてあったか?」
「無い――というか……製作案が出たことはあった」

目をMSから離さず、カガリは言う。

「昔……ヘリオポリスで、お父様がMSを極秘製造していた時、一緒に、アストレイシリーズも三タイプの試作機を作っていたらしい。その際出た試作案の中に、『ブラックフレーム』という機体があったと、エリカ・シモンズが言っていた」
「……ヘリオポリスで……」

四人の中に、苦い思い出が蘇る。
キラも、カガリも、ミリアリアも、激動の戦場に身を投じるきっかけとなったのは、ヘリオポリスなのだ。この中で唯一、生粋の軍人であるイザークでさえ、あの戦場から全てが始まったと言っても過言ではない。

「……つまり、製作資料は作られていたんだな?」
「ああ。最終審議で落とされたはずだ」
「なら……その試料さえ手に入れれば、後は材料と技術者がいれば、作れる」
「だが、なぜ――」

分からない。MSは、一機作り上げるだけでも莫大な費用がかかる。それをこんなに大量に作る理由、そして資金源が。
こと資金面だけ考えても、個人資産で何とかなる額ではないだろう。

「ケイマの奴……なぜこんな物を……」

ふと、頭に彼の言葉が響いた。


公金横領で取り潰されたマズル――
潰したアスハへの復讐――
同じ思いをさせる――……


まさかな、とかぶり振る。

復讐のために、公的資金をかすめ取り、それをMS製造の資金に転用し、流れた先はアスハ家であると仕向け、アスハの名に汚点をつける――そんなことのために、MSをこんなに造られては、たまったものじゃない。
そう、そんな単純な話のわけがない。そう言い聞かせた瞬間、格納庫内を重々しい地響きが襲った。

――いったい何だ? 

これ以上の厄介ごとはごめんだ、と言わんばかりの表情で辺りを見回したカガリは――目を丸くした。
はるか後方……並ぶ黒いMS群の一角で、コックピットへ続く足場が落ちていく様を見て。

「……何だと?!」

イザークも驚愕の表情を見せた。
閉めきられた格納庫で、MSが一機――動き始めている。

「こんな状況で起動させるのか?!」

とっさにイザークは、カガリとミリアリアを庇うように立った。
そんな中、キラはふと、動き出したMSの上方部に目をやり――これまた驚く。
小さく、声が出た。

「……アスラン?」
「何?!」

キラの呟きに、カガリもまた目を凝らす。
はるか遠く、動くMSのコックピットに繋がるコンソール側に、佇む二つの人影が見えた。
紺色の髪と金色の髪。その容姿は間違いなく、あの二人だ。

「アスラン!」
「あいつら、あんな所で何をしてるんだ!!」

喜ぶカガリと、呆気に取られるイザークの横で、ミリアリアもまた、呆然とその名を出す。

「……ディアッカ?」

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