嬉しい……と思う気持ちを、ミリアリアは押し殺した。 そう、彼女は怒っているのだ。 相手は、自分の知らない女性と楽しんでいたおかげで約束を忘れ去った男。 助けに来るくらい、当然なのだ。 だから、こんなことで喜んじゃいけない……と。 「で、アスランはどこに?」 「それが……ちょっとはぐれちゃってね」 「連絡取ろうにも、ディアッカが電源切っててくれてな」 よほど腹が立ったのか、イザークはとても硬そうな拳を作り上げた。 「探しに来て迷子になってどうするんだ、あの馬鹿どもは!!」 「まあまあ。まず、外に出ようよ。二人のことはその後で」 キラはいつも間にか、イザークを鎮める側に回っている。 「でも、どうしよっか。僕達が来た道は、今頃きっと、武装した人達で大変なことになってるだろうし……」 『スーパーコーディネーター』であるキラは、MS戦なら心強い戦力になるが、生身の戦いとなると、頭数に入れられなくなる。 カガリとミリアリアは、『守る』べき存在。 この状況で、まともに戦えるのがイザークだけで、足手まといが三人もいるとなると、引き返すのは厳しいかもしれない。 ――立ちはだかる人は全部なぎ倒す――イザークがここまで来るのに使った強硬手段のおかげで、武装勢力が人員をこちらに呼び込んでいるのを、キラはその耳で聞いている。 「大丈夫だ」 暗くなりかけた空気を、カガリが振り払う。 「この先に、脱出用の通路がある。そこを使えば!」 「脱出用??」 「ああ。昔の記憶だが――しっかり覚えている!!」 言ってカガリは走り出した。キラ、イザーク、ミリアリアが後に続く。 彼女が向かったのは、男達が現れた扉でも、キラ達が飛び込んできた扉でもない、壁の角にある、こじんまりとした扉。 「この先に――」 開けて――カガリは固まった。 考慮するべきだった、「八」年という歳月。その月日は、屋敷の構造を大幅に変えるのに、問題のないほどの長さである。 彼女が思い描いていた細い通路はそこにはない。あるのは、シェルター以上――いや、何倍もの広さを持つ巨大な格納庫。 中には――立ち並ぶ巨大な影。 視線を上げれば、ここにいる誰もが知っているフォルムの全体像を、捉える事が出来る。 ――モビルスーツ―― |