《イザーク・ジュール殿は傍にいないのですね?》
「ああ。別行動中だ」
《そうですか……分かりました。こちらも少々、読み違いをしていました。この誘拐事件、犯人は――》
「ケイマ・センテグロ、だろ? あんたの、お仲間の」
《――そうです》

嫌味を沢山込めて言い放ってみたが、電話の向こうの秘書・イナミは、声のトーンを全く変えることなく、肯定する。

《もしや、マズル邸に入っていますか?》
「入ってザコから概要聞き出して、これから親玉ぶん殴りに行くところだ」
《そうですか。では私が殴る分をぜひとっておいて下さい》
「残んねーと思うぞ」
《余裕があったらで構いません》

相変わらず、声のトーンは変わらない。しかしその中から、ディアッカは静かな怒りを感じ取った。
彼は、怒っている。

「……一つ、確認させてくれ。シホ、どうしたんだ?」
《こちら側に残っていた『別働隊』と――小競り合いになりました。今、医療チームが処置しています。あなた方は心配せず、代表と一般人の救出に全力を注いで下さい》
「分かってるよ。――シホのこと、頼んだぞ」

言うだけ言って、ディアッカは携帯を切った。

「ったく、あいつ……無茶しやがって……」
「彼女、どうしたんだ?」
「分かんねーけど……怪我したみてぇだ。かなり、手酷く」

電話口のイナミは「大丈夫」だと強調した。その中で、どこまでも落ち着き払った口調だったイナミが、一瞬だけ動揺したのを、ディアッカは聞き逃していない。
小競り合い、という言い方にも何かを感じた。何分あのシホが途中で話せなくなるほどの状態だ。相当のものと考えていた方が良い。

「……あいつに、任せるしかねえし、な……」

心配させないため、詳細を話さなかったのだろう。
最早、イナミという男を信用するしかない。こちらからも手を打ちたい気持ちはあるが、それはもう、出来ない状況だ。
液晶画面が暗くなる。
ディアッカが何をしたわけでもないのに、電源が落ちる。

すなわち――電池切れ。

「イザークさんよお……充電はこまめにやろうぜ」
「俺はそういうの、持ってないからな……」

アスランも呻く。ボディーガードである彼も通信端末を持ってはいるが、それは緊急伝令を受信するだけの端末で、こちらから発進することが出来ない。
外部と連絡をとる術は、イザークかキラと合流するか、カガリとミリアリアを取り戻すしかない。

二人は再び、ケイマの部屋へと走った。もう、足止めを食らってなどいられない。
と――唐突に、アスランが足を止めた。

「どうした?」
「いや……あれ」

彼が指差す先、それは大きな扉が少しだけ開かれた部屋。
扉だけでも目を引くのに、何人もの男達が、中へと足を進めている。
どうしても気になった二人は、男達が中に入りきったところで、気付かれない様こっそり部屋を覗き見た。
そして、中の風景を見て――

「カガリ!!」

思わずアスランは声を上げた。




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[〜合流〜]


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