「……消音かけた覚え、ねーぞ?」

いぶかし気に、ディアッカは震えるそれを出す。
掌におさまるサイズの携帯電話を。

「……いつの間に返してもらったんだ?」

アスランの記憶が正しければ、彼の電話はまだ、イザークの手の中のはず。
しかしディアッカは、あっさりその疑問を打ち壊した。

「車から降りる時、奪い返しとい――あ?」

不意に、ディアッカの顔がゆがんだ。
電話の着信者を見て、そしてもう一度、手におさまる携帯を見て……呆然とする。

「……取り返すの間違えた」
「は?!」

実は――形の良く似ている、ディアッカとイザークの携帯電話。おかげで暗闇の中、彼は間違え、友人の携帯を手にしてしまったらしい。
しかも発信しているのは――

「……出ないとまずいよな」
「まずいだろうな」

無視したかったが、罵声が飛ぶのを覚悟し、ディアッカは通話ボタンを押した。

「……もしもし?」
《……ちょっとまって。どうして隊長の携帯に、貴方が出るの》

そこに疑問符は無い。状況を知らない彼女は、第一声から、ディアッカを責める口調だった。
電話口の――シホは。

《早く……隊長と、代わってよ……あ、ちゃんと……拭いてから、渡しなさいよ? 隊長が、穢れるわ》
「……残念ながら、君の大好きな隊長殿は、ただ今別行動中だ」
《……最悪……》

ふと。
ディアッカは違和感を感じた。
……おかしい。彼女に、いつもの覇気が無い。いつもなら、時も場所も考えず、どんな小ネタにでも鋭い攻撃を見せる彼女が、自分がイザークの携帯を持っていることに関して、何の切り返しもふるってこない。

《……隊長の、声……ききたかったのに……》
「シホ?」

不安になる。
シホのこれほどまでに弱々しい声を、ディアッカは今、初めて聞いている。

「どうした? 何かあったのか??」
《別に……ただ、ちょっと、ドジった……だけ……》
「ちょっとって……おい!!」
《平気……だから……》

その声が、息遣いが、平気でないと物語っている。

《隊長に、伝えて。例の証拠は、押えたって…………あと、》

一度息を呑み、呼吸を整え、シホは言った。

《『ミリィ』に、ごめんって――言っといて》
「おい、シホ! シホ!!」

どれだけ呼びかけても、シホの声は聞こえない。
カタン、と衝撃音が耳を貫く。例えるなら、携帯が手から落ちたような。

「おい……ちょっと待て! 返事しろ、シホ!!」
《――彼女は大丈夫だ。心配しなくて良い》

直も呼び掛けたディアッカの耳に届いたのは、聞き慣れない男の声だった。
血の気が、引いていく。

「……あんた、誰だ?」
《失礼。私はイナミ・クルス。オーブ主張連合国家元首・カガリ・ユラ・アスハの秘書をしている者です》

丁寧な挨拶も、不審感を増大させるだけ。

*前次#
戻る0

- 45 /67-