数分後、拘禁室から飛び出した二人の顔は、暗いものになっていた。
男が明かした事実――それは、彼らを束ねる首謀者が、カガリ直属の秘書、ケイマ・センテグロであること。
ケイマはその昔、高家に名を連ねながらも、アスハの内部告発によって公金横領を明るみの元に晒され、結果的に取り潰されてしまった、マズル家の末息子であること。
彼はマズル家の復讐のためにカガリをさらい――実行犯となった彼らは、誰もが昔、マズル家に連なったり、雇われ、世話になった者達だった。

やり切れない。

「自業自得だよな……潰されたのって」
「……逆恨みも良いところだ」

まるで、自分達に言い聞かせるように呻いた。けれど、どう言ったところで、現実に苦しんでいる人達を見れば、胸が痛くなる。
突然、丸裸も良い状態で放り出された『マズル家に連なった者』達。彼らと同じように、何も無い状態で世間に放り出されたはずの末息子は、どんな手を使ったのか、ほどなく姓を変え、それなりの地位を持ち、家に連なった者達の援助をしてきたという。
その恩からか、彼らは今、復讐すると言うケイマの手となり足となり、彼の計画を実行している。

本当に――やり切れない。

ディアッカとアスランは、ケイマの部屋へと向かっていた。主犯の彼が、この屋敷にやって来るという情報を得たからである。
二人が対策室に行った際、すでに姿の無かったケイマ・センテグロ。きっと何らかの口実を作り、対策室入りを逃れたのだろう。
彼は今――自由の身なのだ。
男の話を信じるなら、カガリとミリアリアは自分達で逃げ出したことになる。そして、それはまだ犯人たちに伝わってはいない。唯一知る二人は、さるぐつわを噛ませた上で、牢の中に放り込んできた。
逃げ惑う二人を探し出すより、やって来る首謀者を部屋で待ち伏せし、とっ捕まえた方が早い――とふんだのだ。

「しっかし、中は良い屋敷だな」
「ここまで見た目と違うと……正直と惑う」

見た目は廃屋のこの屋敷、中はとても奇麗で違和感もかなりあるのだが……話を聞いて、なるほど納得させられた。
ここは旧マズル本邸。そして彼らの秘密のアジト。外観の補修までは行き届かなくても、内部は、いついかなる状況になっても良い様に、最新鋭のシステムで管理されているらしい。

「やりにくい建物だな……」

呟き、同時に身を物陰に隠す。
先ほどから、屋敷内が慌しくなっていた。武装した男達がバタバタと走り回り――何度か鉢合わせになりそうにもなった。
これはまさか、二人が脱走したのがバレたのか――
そう思った時だった。

「侵入者はまだ見つからないのか?!」
「大人数じゃないはずだ! 乗用車が一つしかなかったから」
「くっ……一体どこをウロウロと……!!」

男達の声。
ディアッカとアスランは――顔を合わせた。

「……もしかして……」
「俺達を探してる……?」

考えても見よう。
屋敷近くまで車で乗りつける。
内部へは扉を蹴破って侵入。
イザークの雄叫びは、中を走る二人にもはっきり聞こえた。
警戒されないはずが無い。
さっさとケイマを押えよう……と動き出そうとして、

ヴヴヴヴヴ……

突如、ディアッカの胸ポケットから振動音が響いた。

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