それで――
それで『今日』なのか。
明かされた実行日の意味に、カガリはうなだれ、そして嘆く。

「……信じていたのにっ……」
「そのために、わざわざ秘書なんて地位に甘んじていたのさ。お前の側の方が、色々と小細工しやすいからな」
「小細工って――」
「アスハにも、マズルと同じ運命をたどってもらう」

瞬間、二人の顔が青ざめた。
マズルと同じ運命――それは、

「不正を働き、潰されるアスハ……君にはしっかり体験してもらわないとな」
「……まってよ……」

そこまで話を聞いて、再びミリアリアが口を挟む。

「まさかこの誘拐……ただの目くらましってこと?」
「君は利口だね、ミリアリア・ハウ。名も無いジャーナリストにしておくのは勿体無いよ」

つまり、この騒ぎに乗じて、『アスハ』という家に対し、何らかの罠を張ろうとしている。それは――明るみに出れば、マズル同様、アスハも無くなってしまうほどの威力を持った何か。
何もかもがカガリの責任として、全て彼女の身に圧し掛かる、何か。

「お褒めの言葉は有り難いけど、これ、完全な逆恨みじゃない? 全部、あんた達が悪いんでしょ?」
「それを言われると痛いけどね……でも、やりすぎじゃないか? 父や兄達を捕まえただけじゃなく、家まで潰した。マズルの家を無くす必要がどこにあった? 家の再興も許されず、使用人達まで路頭をさ迷う羽目になった!」

叫んで、感情をむき出しにして――ケイマは我に返った。
あくまでも冷静に、こちらが優位であることを強調しようと、見下すように言い捨てる。

「しかし、携帯を落とされたのは計算外だったな。本当は、内部分裂って図を作りたかったんだが……残念だよ」

そこまで言って――部屋の中に、男が数人入ってくる。全員、ケイマの部下だろう。
武器を手に、二人を捕まえようと、ゆっくり近づく。
カガリとミリアリアは……ゆっくり、ゆっくりと追い込まれていった。

「君達にはもう少し、おとなしくしてもらいたいんでね」
「……そう、おとなしくなるとでも思ってるのか?」
「ならざるを得ないだろう?」
「……どうかな?」

追い込まれている――はずのカガリの顔に、不敵の笑みがこぼれる。
ついには壁際まで追い詰められてしまったが、それでも彼女の表情は変わらなかった。

「お前が色々しゃべってくれたおかげで、面白い事を思い出したよ」
「……何?」
「ここ、マズルの本邸だろう? 八年前、私がマズルを取り潰されるきっかけを見つけた、あの」
「それがどうした!」
「お前が場所と日取りにこだわってくれたおかげで、逃げ道見つけたって事だ!!」

言うと同時に、カガリは壁を思いっきり押した。


がこんっ!


まるでスイッチのように引っ込んだ壁の一部。途端、カガリの背にあった壁は、隠し扉の原理で回転し、一瞬で二人を別の部屋へと連れ去ってしまう。
あまりの早業に、ぽかんとするケイマ、他数名。
彼は忘れていた。この家の住人だったのに、すっかり忘れ去っていた。この部屋に、逃走用の隠し扉が設置されていることを。

「カガリ・ユラ・アスハ……どこまでもコケにしやがって……!」

残されたケイマの瞳には、憎しみの炎が灯っていた。

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