「ケイマ・セト・マズル。それが私の本名ですよ、カガリ・ユラ・アスハ」
「だが……いや、マズルの人間は、全て逮捕されたはずだ。釈放されるという話だって聞いてない。それに第一、どうやってマズルの人間が、私の秘書に……」
「大人の事情、というものです。子供の貴方が知る必要もない」
「なんだと?!」
「カガリ、落ち着いて!!」

あまりにも多くのことが一気に伝えられ、少々混乱している。
興奮するカガリを抑えながら、ミリアリアは提示された情報を整理した。

秘書、ケイマ・センテグロは、本名をケイマ・セト・マズルと言い、八年前に取り潰された氏族の一角・マズル家の人間らしい。彼がどんな手を使ったかは知らないが、カガリの側で、彼女の信頼を置く人間を演じ――機会を窺っていた、ということだろうか。

「一つ答えるなら……そうだな、私は逮捕されていない。八年前、私はまだ社会に出たてだった。父や兄達が行っていたことも、私は全くかかわっていなくてね。無論、捜査機関に実証されている。不正は働いていないよ」

震えるカガリを見下す態度が、とにかく腹立たしい。
意を決し、ミリアリアは口を開いた。

「貴方は何がしたいんですか? ……カガリを誘拐して、お金まで要求して……」
「アスハ家は、当主の危機にどれだけ金をかき集めるのか、知りたくなってね」
「何よ、それ」
「……ご不満のようだが、これが身代金請求の真実だよ」

ケイマは仰々しく両手を広げると、はっきりと言ってくれた。

「これら全て、アスハへの復讐だからね」
『な――!!』

思わず二人は声を合わせた。
彼は今、言い切った。アスハへの復讐――と。
オーブという国ではなく、アスハという一つの公家に対しての復讐だと。


「たったあれだけのことで、マズル家は取り潰されたんだぞ?! しかもお前のみたいな小娘が、家でかくれんぼなんかやったおかげで――」

「……は?」

突然変わるケイマの口調、そして明かされる事実から、ミリアリアは思わずカガリを見た。
目を点にして。

かくれんぼ――?

そんなミリアリアに、カガリが当時のことを話した。

「八年前、お父さまとマズル家で行われた立食会に参加したとき、私はじっとしてられなくて……ユウナや一緒に来ていた官僚たちを交えて、大かくれんぼ大会をやったんだ。で、隠れ場所を探している内に、公金横領の証拠となる書類を保管していた隠し部屋を発見してしまってな」
「……へえ……」

ミリアリアの目は――戻らなかった。
子供の遊びで発見される犯罪の物証……笑えない。

「あれから私がどれだけ苦しい思いをしたか!! なのにお前は一人のうのうと、国家元首なんて地位に上りやがって!!」
「そのための復讐だと言うのか?!」
「ああ、そうさ! 復讐にはもってこいの日取りじゃないか! 7月7日!! あの、悪夢の立食会が行なわれた日なんだからな!!」

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