「……どこよ、ここ……」

数分後、二人は途方に暮れていた。
初めて来た屋敷のため、自分達がどの辺にいるのか、さっぱり分からない。階段をたくさん上ったのは覚えているのだが……

「……おかしいな」
「何?」
「いや……なんか見覚えあるんだよな、この造り……」

カガリは首をかしげた。まるで昔、この屋敷に足を踏み入れたような。
しかしそれも、思い出せなければ意味がない。
おまけに、囚われの身にもかかわらず、大声出して走り回ったおかげか、屋敷の中は多くの「追跡者」で溢れている。
まさに八方塞だ。

「こんなに沢山いたなんて……」

階段の陰に隠れたミリアリアは、こっそり通路を覗き込んだ。今こうしているこの時すら、武器を手にした男が二人を探している。

「だから言ったんだ、下手に動かない方が良いって」
「そんなこと言われたって……どっちにしろあのままじゃ……!!」

……キイイッ
会話の途中で、二人の耳に、車の急ブレーキのような音が響いた。
誰かが到着した……?
辺りに人がいないことを確かめ、ミリアリアは側にあった窓から外を眺める。
高級車がそこにはあった。誰か――人が降りてくるのは見えるが、姿形まではっきり確認することは出来ない。

「……あれは……」

一方、ミリアリアから数秒遅れて外を見に来たカガリは、悠然と歩く人影に言葉を失う。

「……知ってる人?」
「……ああ」

ミリアリアに分からなくても、カガリには分かった。分かって――苦しそうな顔をする。
車から出てきた人影は、出迎えられてるように見える。
あれは……犯人。

「……あいつが……本当に?」

ゆらりと足が後ろに引かれる。それほどまで、カガリはショックを受けていた。
ミリアリアの目では確認できなかったが……それほど信頼を置く人間だったのだろう。見れば、顔は青ざめ、驚愕に満ちている。

先ほど、カガリは拘禁室で一筋の明光を見つけていた。
内部犯ではない可能性も高い。何せ自分はGPS付きの携帯を持っている。それは自分で落としてしまって、犯人には想定外のことだった。
つまり、『ただ連れ去っても居場所を知られるだけ』という根本的事実を知らなかった、ということになる。
なのに、僅かな時間で、その光は消し去られてしまった。

「……くそっ!」
「え? カガリ?!」

突然カガリは走り出した。
自分達が追われている対象だというのも忘れて。

「待って、カガリ!!」

ミリアリアも後を追う。ここで離れ離れになるわけにはいかない。
カガリはどこへ行こうとしているのか――迷うことなく走っていた。
多分、外を見たことで、現在地を何となく把握したのだろう。あとは自分の方向感覚を信じ、目的の場所へ走るだけ。

「どこに行くの?!」
「問い詰める!!」
「は?!」

一瞬、何を言っているのか分からなかった。
しかし彼女は、はっきりと続けた。

「あの馬鹿とっ捕まえて、ことの真意を聞き出してやる!!」
「ええっ?!」
「今ならまだ、玄関付近でもうろついてるだろう。そこを押える!!」
「待って!!」

ミリアリアはカガリの手を引くと、運良く無人状態だった部屋に身を潜め、彼女の口を塞ぐ。
直後――二人の走っていた前方から、男たちがすごい速さで走り去っていった。


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