「今までの話だと、カガリのいる場所、分かってないように聞こえるんだけど……」
「ああ」
「……どこに向かって走ってるの?」
「追跡班がふりきられた場所」
「……それからどうするの?」
「探すんだ」
「どうやって?」
「その辺を周って」
「それで見つかりそうなの?」
『…………』

キラの言葉に……誰もが言葉を失った。
数秒後、

「……行き当たりばったり?」
『うるさい!!』

三人の声が、息ぴったりに合わさる。

「……はぁ」

大きなため息をつくと、キラはポケットから小型のモバイルを取り出した。彼は早業で起動させると、恐ろしいスピードで目的のソフトを立ち上げる。

「……何してるんだ?」
「んー……実はカガリに、『ハロ育成計画』の試作品を渡しておいたんだ」
『は?』

思いもよらぬ迷言に、これまた三人の声が、素敵に合わさった。

「詳しい説明は省くけど、カガリの誕生日プレゼントに、発信機付きハロ型ペンダントをあげたんだ。七夕祭につけてくって言ってたから多分……あ、さすがカガリ。しっかりつけてた」

ぴこんっ!

モバイルから電子音が響き、ある一点で、白い光が点滅を始める。
その様を確認しながら、アスランは呻いた。

「何でそんなものをカガリに……」
「まあ気にしないで」

そう、今は『ハロ育成計画』を気にしていられる状況じゃない。
大事なのはカガリとミリアリア、二人の身の安全だ。

「おい貴様ぁ! 場所はどこなんだ? さっさと教えろ!!」
「あ、うん。場所は――」

直後、四人の乗った車は猛スピードで進路を変え――十数分後。
車は、首都の外れまでやってきた。






住宅街を抜け、林道を通り……辿り着いたのは一軒の廃屋。
昔はとてつもなく豪華であっただろう『豪邸』の変わり果てた姿に、イザークは我が目を疑った。
キラから提示された住所を聞き、何か頭をかすめるものがあった。それが指し示すものも分からず車を走らせてはみたが……実際、自分のいる場所を確認して、欠落していた情報に気がつく。

これは……思いのほか、事件の根は深いかもしれない。

「まさか……ここは」
「どうしたの?」

キラが声をかけ――しかしイザークの耳には届かない。

「となると……まずいな。おい貴様ら! 少し待ってろ、今――」
「……ねえ、ちょっと」
「何だ、うるさいぞ!!」

携帯片手に、イザークは振り返る。そこにいるのは――彼の肩をつついたキラだけだった。
ディアッカとアスラン、二人の姿はどこにも無い。その代わりと言っては何だが――脆くなっているであろう扉が、思いっきり蹴破られている。
全てはその扉が教えてくれた。
つまりあの二人は、自分が「待て」と言うのも聞かず……いや、話すら聞こうとせず、屋敷に突入しやがった。

「あ・い・つ・らーーーーーッ!!」

イザークの怒髪天がうなる。
敵もまだ未知数だというのに、なぜ考えなく突っ込んで行くのか。

「ほら、怒ってないで、僕たちも早く中に!!」
「分かっている! てゆーかお前が仕切るな!!」
「はいはい」
「はいはい、じゃなーーーーーいッ!!」

どうにもこうにも、ジュール隊長の怒りは、おさまる所を知らない。
それでも冷静で居ようという頭か、携帯をパチンと開いた。

「とにかく、先に連絡しないと」
「ここがどこだか、知ってるの?」
「当り前だ。現地の文化や近代史はコミュニケーションツールとしても役立つし、何より『万が一』の時、知らないことが対処の遅れにつながることもある。例えば、今回のようにな」

話しながら、イザークは記録したキサカの番号を探す。だが、自覚しない所で焦っているのか、どうしても番号を見つけだすことが出来ない。
小さな舌打ちが聞こえる。そこで彼の手つきが、電話番号を探す動作から、登録した時に見た番号を打ち込む動きに変わった。探すより、打った方が早いと判断して。

「へえ……有名な場所なんだ……」
「……貴様、まさかここがどこだか知らないのか?」

あと一つ数字を打てば電話がかかる――そこでイザークの指が止まった。
耳を疑う言葉に、キラは苦笑いを浮かべるだけ。

「僕、近代史弱くて……」
「あのな……たった八年前のことだぞ?! 八年前、マズル家が起こした事件!!」

叫び様、イザークは最後の数字を押した。
同時に、キラは記憶の彼方から、その「事件」の記憶を引っ張り出した。

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