「重要なこと……動機?」
「民間人の方が勘が良いな」

すかさず答えたキラに、イザークも笑みを浮かべた。

「内部犯と考えて、一番想像しやすいのは『権力闘争』だろう。特に彼女は『戦争終結の立役者』という看板を持ちながら、それ以上に『亡き代表の娘』の側面が強すぎる。やっかみは多いんだろう? アスラン」
「そんなことはない! みんな、代表はカガリが一番ふさわしいと――」
「そうやって、実権を握ろうとしている、と」
「――……ああ。そうだな」

最終的に、アスランは折れた。
自分が気づいているだけでも、カガリは相当数の非難や嫉妬を受けている。彼女は心を痛めているはずだが、それを表に出すことは無い。
彼女は気丈に、公務をこなしていた。今日だって。

「……よりによって、この大事な時期に……」
「この時期、だからだろう?」

冷静に、イザークは言う。

「代表を陥れるのには、都合の良い時期だと思うぞ? 他国の使者が来て、大事な外交会議をやっている最中の誘拐――それだけで、国のダメージはかなり大きいはずだ」
「たしかに」

ディアッカもうなずく。

「不幸中の幸いだったのは、代表が携帯を落としてくれたことだな」
「イザーク! そのせいで、カガリ達がどこにいるのか、分からなくなってるんだぞ?!」
「――ぇえっ?!」

驚くキラの声は――完全に無視された。
アスランは、横から入った声を全く気にしないで、続ける。

「それを幸いだと?! お前、何を考えて――」
「少なくとも、おかげで対策室の連中は、代表の居場所を把握できなくなった。つまり――助けにいけなくなったんだ。内部にいると思われる犯人も、たとえ対策室の中にいるとしても、その場所を示すことが出来なくなった――ということだろう?」
「……そうだが、カガリの場所を示さないために、携帯を落としたんじゃないのか?」
「なら訊くが、その暇が犯人側にあったのか? 携帯を落とし、二人を車に連れ込み、貴様らの反撃を振り切れるほどの時間があったのか? もしそうなら、貴様ら本当に無能だぞ」

イザークの早口論法に、アスランは反撃の機会を失った。

「もしキサカ殿の立てた仮説が正しければ、これは計算外の大事態だ。奴らの計画をつぶすチャンスが舞い込んだと言えるな」
「まて? あのおっさん、犯人の目星、つけてんのか?!」

それまで沈黙を保っていたディアッカが、突然割って入った。

「そうだ、と言ったら?」
「じゃ、何でそいつを捕まえねーんだよ!! 一番手っ取り早いじゃねーか!!」
「馬鹿か貴様は。証拠は全く無いんだぞ? 下手に突っついて、人質に何かあったらどうするんだ!!」
「――――」

呆れたイザークは、ディアッカを一刀両断にする。
ディアッカは……黙ることしか出来なかった。
人質に何かある場合――かなりの高確率で――何かされるのはミリアリアだ。関係ないから傷つけないような、紳士的な誘拐犯とは思えない。
実際、すでに手傷を負わされている可能性もある。

「……イザーク、何でお前、そんなに詳しいんだ……?」

ザフトの一隊長とは思えないほどの情報網に、アスランは首をかしげた。
今回の事件に対するキサカの仮説など、彼だって知らない。
答えは、やけにあっさり返ってきた。

「キサカ殿から、協力を打診された」

自信たっぷりに言った。
口にこそ出さなかったが、ディアッカは分かっていた。多分、あの時。電話で犯人とやり取りをした後、イザークがキサカに呼ばれ、次いでシホも呼ばれた、あの時だろう。

「俺達の方が色々と動きやすいからな。軍や国政に携わる人間が調査に乗り出せば、犯人に筒抜けになる可能性が高いだろう? ま、こんな話を『情報漏洩危惧対象者』の前で話すのもどうかと思うが」
「…………」

続けられた嫌味に、アスランは、強固な拳を作ることで耐えた。
情報漏洩危惧対象者――すなわち、『情報を与えるにふさわしくない人間』の一人なのだ。言われれば仕方ないことなのだが、簡単に割り切れもせず、アスランはイザークの挑発に対し、何も言い返せなかった。


〈――勝った〉


勝負でも何でもないのに、イザークが勝利の微笑をたたえる。

「……あの、さ……一つ、訊いて良い?」

そんな中、キラが申し訳なさそうに声を上げた。


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