「あいつ、すごく楽しみにしてたぞ? 今日はお前とデートなんだ――って」
「デートって……」

言われ、ミリアリアは頭を抱える。


――なに言いふらしてんのよ、あいつ……


それ以前に、デートではない。誰もそんなこと言ってないのだ。
久々に地球に来るから、会うだけ。
それだけのこと……だったのに。


…………嬉しかった。


地球に降りて、わざわざ会おうと言ってくれたのが、すごく嬉しかったのに。
だからこそ許せなかった。
別の誰かといたおかげで、自分の事を忘れ去っていたディアッカが。

あ。なんだか。
忘れかけていた怒りに、再び炎が点り始めた。
ゆらりと立ち上がったミリアリアは、そのまま鉄格子へと足を進めた。
目で捉えられるほどはっきりした怒りのオーラに、カガリはたじろぐ。
彼女の心に、ミリアリア、絶対零度の微笑がよみがえった。

「カガリも手伝って」
「待て? 今の話の流れだと――」

――救助を待つんじゃないのか?

本人は全て言い切ったつもりだったが、悲しいかな途中から、ミリアリアの微笑でかき消されていた。

「早くみんなを安心させたいでしょ?」

疑問符はついているが、そこに選択肢は用意されていない。
移動は決定事項のようだ。


〈なんだかんだ言って……結局ディアッカに怒ってるだけなんじゃないのか?〉


心の中で呻いたのは、口に出す勇気がないから。
ひとたび言えば――どれほどの反撃を受けるか分からない。
大きなため息をつき、カガリもまた錠に手をかける。

「……ん?」

その瞬間、カガリは眉間にしわを寄せた。

「いや、待て、ミリアリア。さっきの、内部犯がどうのって話なんだが……やっぱり、おかしいぞ?」
「なにが?」
「だって、誘拐犯達、私の携帯を交渉の道具にしようとした。でも、あれがあれば、私の居場所は把握できるんだ。私の部下達は、皆それを知っている」
「それは――」

ミリアリアが何かを言いかける。
ほぼ同時に――静かな拘禁室の一角から、カタン、と不思議な物音が響いた。




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