カガリは、膝を抱えて肩を震わせていた。
目を細めると、ミリアリアは格子から手を離し、彼女の横に腰を下ろす。
ここにいるのは二人だけ。
たった二人の空間に、何とも言えない空気が流れる。
ただ、寂しくて、苦しくて、怖くて――

「私がもっと、しっかりしていれば……」

それは、誘拐されたことへの憤りか。
それとも、停戦協定がくまれた今でも、ナチュラルとコーディネーターが憎しみ合う世界への嘆きか。

彼女が願うは恒久なる平和。
ヤキン戦以後、オーブに戻ったカガリは、悲しみを堪え、ひたすら和平への道を模索した。
確かに、道は作られた。
上辺だけの道筋が。
実質的には……何も変わっていない。
焦りは歪を生む。今回はそれが、国内の不穏分子という形で現れてしまった。

「一体私は、何を信じれば良いんだ?」

カガリの言葉に、絶望が混ざる。

「誰を信じれば……誰が信じられるんだ?」

涙をためた瞳で、カガリはミリアリアを見た。
助けを求めるように。

「……カガリは、」

一瞬呼吸を置いたのは、自分の心を落ち着けるため。

「アスランを、信じてるんでしょ?」

励まそうとしているのに、顔を引きつらせるわけにはいかないから。
アスラン――その名を出すことに、彼女は未だ、抵抗心を持っている。彼に思いを寄せるカガリには悪いが……ミリアリアはまだ、アスラン本人と向き合う勇気を持てていない。
彼女の心の葛藤を知らないカガリは、涙をぬぐって言った。

「信じてる……私は、アスランを」
「なら、それで良いじゃない」

カガリは国の頂点に立つ身。本当はそれで良いと言ってはいけないのだが……細かいことは全て置いておく。
今一番大切なこと、それはカガリの精神的ダメージを和らげることなのだから。

「誰か一人でも信じられる人がいれば、それで」

頭を優しくなでるミリアリア。
するとカガリは、不思議そうに問い返した。

「……ミリアリアは、信じられないのか?」
「え?」
「ディアッカのこと」

会話の主題は突然、ミリアリアへと切り替わった。
金色の無垢な瞳で見つめられ、彼女は目を泳がせる。
ディアッカを信じられるか、と聞かれても。
……一体奴のどこをどんな風に信じれと言うのか、具体的に教えて欲しいものだ。

*前次#
戻る0

- 31 /67-