「車がどこから来たか、覚えてる?」
「……それは……私達が、来た方から……」
「私達が議事堂に入った時、正門は閉められたじゃない」
「――――あ……」

虚ろな耳で聞いた。あの時のことをよく思い出すと、SP達の会話の後で、門を閉める音を聞いている。

「議事堂の入口は二つ。両入口の傍に駐車スペースがあって、裏口から正門側に向かうには、私達がいた所を通らなくちゃならないはずよ」
「そうだ……歩いてなら道もあるが、車だと……」
「となれば車が中にあったのは、正門を無理矢理突破するか、内部からの手引きがあったか。でも、正門突破の可能性はほとんど無い」
「内部って――お前、本気で言ってるのか?!」

カガリの口調が強くなる。
ミリアリアの話は、彼女の部下の中に犯人がいると言っているようなものだ。

「そもそも、なんで正面突破が無いって言いきるんだ」
「門ってね、頑丈なのよ? あんなのにぶつかったら、車ぐしゃぐしゃになっちゃうじゃない。音だってすごいはずよ?」
「う――」
「開けさせた、って説もあるけど……それこそ、あの二人の門番が犯人に見つかって、脅されて開けさせられた、とか」
「そうだ! それだ!!」

提示された仮説に、カガリは大きく頷いた。
それでも、ミリアリアは表情を変えない。逆に、少し曇らせる。

「そうなると、二人はどうして報告しなかったのかしら。特にアスラン達には、かなり早い段階で緊急信号をいれるはず。時間のことを考えたって、せめて警備の強化指示を出したって良いくらいよ? なのに皆が異変に気付いたのは、男たちが私達を捕まえてから。報告は、入っていないってことでしょ?」
「出来なかったんじゃないか?」
「どうして?」
「どうしてって――」

続けようとして、カガリは言葉を失った。
言えない。
そんなこと、絶対、あっては……
カガリの脳裏に浮かんだ考えを、ミリアリアは代弁する。

「嫌でしょ? 考えたくないでしょ? 例えば、『どこかに閉じ込められている』にしたって、早く見つけないと、命の危険があるかもしれない。もうすでに、本当に『最悪な状態』に陥ったかもしれない、……なんて」

あえてミリアリアは、表現を柔らかくした。
カガリは相当な衝撃を受けている。直接的な言葉は――酷だ。

「でも、内部に協力者ないし犯人がいると考えた方が現実的だわ。手引き者がいれば、なんらかの理由をつけて、昼の内から車を敷地内に入れておくことができる。もし門の番人が内通者なら、車を入れるなんて容易なことよ」
「あいつらがそんなことするわけないだろ!」
「あくまで、可能性の話よ」

感情的になるカガリに対し、ミリアリアは冷静だ。
彼女の落ち着いた言葉を聞くたびに、カガリの頭は冷やされる。

「……だけど、なんで、そんな……」
「カガリが誘拐されて、得する人間がいる。そいつが犯人よ」
「得する、人間……」

しかめた顔にかかる髪を、カガリは震える手でかき上げた。
絶対の信頼を置いていた行政府。彼女にとって身近である存在の中に、犯人――の一人がいるとなれば……

「そもそも、現金で五百億なんて、桁が大きすぎるわ。たとえ用意できたとして、どうやって運ぶのよ」

馬鹿げた話だ、とミリアリアは続ける。

「分かる? カガリ。犯人が身近な存在であればあるほど、ディアッカ達はここまで辿り着けないの。だから――」

そこまで言って、ミリアリアはようやく気がついた。
自分の言葉が――正論とはいえ――どれだけ彼女を傷つけているのか。
自分のごく身近にいる人間に陥れられたと知れば、精神的ダメージは高いだろうことに。

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