議事堂の中だけは把握しているのか、ディアッカは迷うことなく走っていた。 その後を、歩幅にして五歩分ほど後ろに、アスランが続いている。 疾走する二人。見えてきた中央階段さえ下りれば正面玄関に辿り着く――にもかかわらず、ディアッカは階段を下りず、真っ直ぐ走って行ってしまった。 ここまで迷いが無くやって来た分、アスランは慌てた。 「おい、ディアッカ! 待て!!」 「なんだよ!」 「こっちだ!!」 階段を下り、ディアッカを誘導しようとするアスラン。しかしディアッカは、冷めた目で見降ろす。 「そっち、正門だろ」 「ああ」 その返事に、ディアッカは怪訝な顔をした。 「正門、もう閉まってんだろ。それとも鍵持ってんのか??」 「あ、いや……持って、ない……」 「じゃ、取りに行って正門使うより、裏口使った方が手っとり早くねーか?」 言って走りだす姿に、アスランは――またも慌てて追いかけた。 正門が閉まっていることを、すっかり忘れていた。直前に、帰りは裏口を使え、と言われていたのに。 と、当時の光景が頭をかすめ、 〈……ん?〉 おかしなことに気がついた。 同時に、とても嫌な予感が、彼を襲っていた。 勢いよく議事堂の扉が開く。議事堂にしては小さな通用口だが、ここが一番裏口に近い扉だった。二人は走って大きな門を出、誘拐犯が最後に目撃された場所に行こうとする。 そこで、先頭を走るディアッカの足が止まった。 「どうした?」 「あ、いや……お前も、地図見てたよな?」 「ああ…………もしかして、お前場所が分からな――」 「場所は分かる! そこまでの行き方が分からないだけだ!!」 アスランの視線に、ディアッカは全力で反論した。 地図を思い出す。それは完璧に頭に描ける。紙に描けと言われれば、正確に描き起こすことも出来るだろう。 だがその中に――議事堂が無い。 彼が見た時、モニタに映る地図は拡大され、道路や細い道ですら詳細に記されていた。そのおかげで、議事堂がある場所は、モニタから外れてしまったらしい。 今一度、思い出そう。ここはオーブ。ディアッカにとって、全く土地勘の無い場所。オーブ全土の地図が、ディアッカの頭に入っているわけもなく。 「……分かる、よな?」 「当り前だろう」 はあ、と呆れ様にため息をつくアスラン。「こっちだ」とディアッカの前を走りだし―― 「あれ? アスランに……ディアッカ??」 同時に、素っ頓狂な声が響いた。 知ってる声に、ディアッカはすかさず振り返る。 アスランは……ぽかんと口を開いた。 「……キラ?」 向かい側の道路に立つ、茶色い髪、線の細い身体の少年……見間違うわけも無い。 どこをどう見ても、キラだ。 「どうしたんだ? キラ……お前がここに来るなんて」 「それはこっちの台詞だよ」 言いながら、キラがこちら側に来る。 キラとカガリは双子の姉弟だが、キラが議事堂に――カガリの働く場所に来る事はまず無い。 それが何故、こんな時に。 二人の驚きを他所に、キラはあっさり答えを続けた。 「八時に家に来るって言ってたのに、連絡一つ無いからさ。花火買い足すがてら、様子見しようって思って」 アスランは――また、伝えるべき人間に伝え忘れていたのを思い出した。 すっかり忘れていた。 今日は七月七日、七夕の日。 八時からマルキオ邸で開かれる七夕祭に、自分とカガリは参加することになっていたことを。 |