どれほどの距離を走っただろうか……突然ブレーキがかかった。 辿り着いたのは巨大な廃屋。心霊スポットとして大活躍しそうな廃れ具合だ。 背中に銃を突きつけられ、二人は抵抗することも出来ず、廃屋の仲へと足を踏み入れる。すると、屋敷の印象はガラリと変わった。 外観とは全く違い、綺麗に造られた内装。これだけ中が綺麗なのに、どうして外はあんなに寂れているのか、逆に不思議に思えてくる。 「さっさと歩け」 銃が背中を押し、二人は歩みを速めた。 一体どこに連れて行かれるのだろう……身をこわばらせていると、辿り着いたのは地下に構える拘禁室だった。 囚人扱いか―― 声に出さず、胸中で呻くカガリ。 ミリアリアは……先ほどから俯いたまま、顔を上げる様子もない。 二人を獄中に入れると、鍵だけかけて、男四人は拘禁室を出て行った。どうやらこの二人だけでの脱出は不可能と、高をくくっているらしい。 こちらにとってはありがたいことだが。 「……大丈夫か? ミリアリア」 「うん」 俯くミリアリアに、カガリが手をかける。髪の間から見える頬は、未だ赤味を帯びていた。 それは、カガリの心を深く抉る。 「ごめん」 「……カガリ?」 涙混じりの声を聞き、ようやくミリアリアは顔を上げた。 彼女の目に映るのは――両手を膝に乗せ、きゅっと拳に力を入れ、頭を下げるカガリの姿。 「本当に……こんなことに巻き込んで……その上怪我まで……わたし……っ」 「そんな、カガリ……顔上げて、ね?」 カガリは泣いていた。 自分の不甲斐なさと、ミリアリアに怪我をさせた申し訳なさから。 「さっきも言ったけど、カガリのせいじゃないから。全部……私のせいだから」 なだめるミリアリアから本音が飛び出した。 きっと自分が議事堂などに行かなければ、こんな事態に陥ることは無かった――そんな負い目が彼女にはある。 だからミリアリアは、何よりもまず、カガリを安全な場所まで連れて行きたかった。 「それより今は、ここから脱出しないと」 言って彼女は、鉄格子に手をやった。 二人を阻むのは旧文明の施錠。コレなら何とか壊せそうな気がする。 鞄の中にしまっていたヘアピンを取り出すと、なんとミリアリアは、鍵と格闘を始めた。 「……何してるんだ?」 「鍵開け」 不思議そうな声に、ミリアリアは至極冷静な答えを返す。 そんな彼女に、カガリは自分の意見を示した。 「……なあ、下手に動かない方が良くないか?」 「どうして? 早く逃げ出さないと、何されるか……」 「それはそうだが……多分アスランたちがこっちへ向かっている。私たち二人が勝手に動くより、あいつらの到着を待った方が良いと思うんだ。ほら、きっとディアッカだって――」 「―-ディアッカ?」 それはあまりにも突然のことだった。 絶対零度の風が、一瞬で拘禁室に充満する。 発生源は、もちろんミリアリア。 カガリは忘れていた。ミリアリアがディアッカに対してひどく怒っている事を。 いや――先ほどよりも、憤怒メーターは良い高さまで上がっている。 「何で私が、あの男を待たなくちゃいけないの?」 にっこり微笑むミリアリアに――カガリは逆らうことが出来なかった。 [〜追跡〜] |