「ない……あれ? どこいった??」

さすがにカガリは慌てた。いつも入れてるポケットに、いつも入っている物が無いのだから。

「……落としたのかしら」
「かもしれん」

携帯が無い理由をはじき出す二人。
誘拐犯達は、見る見る顔色を変えていった。

「おい……どうすんだよ、交渉……」
「向こうとの連絡は、国家元首の携帯で、だろう? それが無いとなると……」
「はっ。どうやら失敗らしいな、お前らの犯罪も」
「……てめぇ、自分の立場分かってんのか?!」

突然入ったカガリの挑発めいた言葉に、男の一人が怒りをあらわにした。
鬼の形相で立ち上がり、そのままカガリに掴みかかる。

「ちょ……止めなさいよ!」
「――うるせぇ!」

とっさに間に入るミリアリア。
だが、入ったところで何が出来るわけでもない。振りほどくように払った男の腕が、大きな音とともに、彼女の顔を凪いだ。

「ミリアリア!!」

カガリは男の呪縛から逃れ、彼女に駆け寄る。

「大丈夫か?!」
「……へーき……」

言うものの、殴られた頬は痛々しく腫れ上がっていた。
カガリの心に、怒りが広がる。関係ない少女を巻き込み、あまつさえ怪我を負わせた男たちへと。

「貴様ら……これ以上何かしたら、ただじゃ済まさないぞ!」
「あんたにどれほどの力があるって言うんだ?」

平然と、男は言う。
悔しくて、カガリは下唇を噛んだ。

――その通りだ。今の自分には、何の力も無い。
無力なのだ。
そう、カガリが痛感した時――


ピピピピピピピ……


不意に、電子音がワゴン内に響いた。

「何の音だ?」

運転席からも疑念の声が飛ぶ。

「!!」

音を響かせる存在を見つけたミリアリアは、慌ててそれを手中に収めた。
殴られた衝撃で鞄からこぼれた落ちた、自身の携帯を。
画面に映る発信者の名前に、ミリアリアは体を凍りつかせる。

かけてきたのは――ディアッカだった。

驚きと戸惑いが、彼女の中に広がる。しかしそんな気分に浸ってられたのは、ほんの数秒だけだった。
電話はすぐさま、誘拐犯に奪われる。

「へぇ……あんたの男か?」
「あ!」

面白そうに電話を取る男。彼はあろうことか、通信モードをスピーカー状態にして相手方と電話をつないでくれた。

「おい……そんな電話切れよ……」
「いーじゃんかよ、面白そうだし」

それ以上、仲間から注意は入らなかった。その代わりと言っては何だが、スピーカーから声がもれてくる。

《もしもし?》

それは、聞きなれぬ女性のものだった。

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