せわしなく動き回る官僚達……彼らの邪魔にならないよう、ディアッカ、イザーク、シホの三人は、部屋の隅へと移動した。
議題・結局『ミリィ』とはどうなったのか。

「会えるわけねーだろ」

イザークに問われ、ディアッカは半眼で答える。

「てか、俺の携帯返せよ。あいつに連絡したいんだけど……」
「取ってきます」

そう言ったのは、意外にもシホだった。
ディアッカが驚く中、彼女は対策本部を早足に出て行ってしまう。
……何とも不思議な光景だ。

「夢……じゃねーよな?」
「シホも、責任は感じている。貴様のことはどうでもよさそうだが、相手には悪い事をした……と反省していた」
「へえ……」

ディアッカは素直に感心した。

「どっちにしろ今日は会えないだろうから、電話越しにでも謝り倒しておけ」
「そのつもり。
 で? 一体どんな状況なわけ? あいつがドジるってこたー、よほどの相手なんだろ?」

話は突然、現在起きている事件のものに変わった。かかわる以上、少しでも情報を頭の中に叩き込んでおきたい。
しかし、返ってきたのは情報と呼ぶにはあまりに寂しいもので。

「詳細は知らん。代表がGPS携帯落としたおかげで位置確認できないってのは、奴らの会話を聞いて分かったが……そもそもこっちには、代表と民間人一名が五人組の男にさらわれた――としか説明ないからな。他国の軍人には、あまり公に知られたくないんだろう」
「民間人かー……」

そりゃまた厄介なことだ、と大げさに言いながら、おかしなことに気がつく。

「……じゃ、何でお前はここに入れてるわけ?」

イザークの話は矛盾している。他国の軍人に知られたくないことなら、彼やシホが誘拐対策本部などに入れるわけないのだ。
彼はその疑問に、仁王立ちで答えた。

「代表がさらわれたのに、そんな細かいこと構ってられる余裕あるのか貴様ら。――と言ったら、すんなり招待された」

その場を想像して……ディアッカは大きなため息をついた。
きっと怒鳴ったんだろう。そしてキサカあたりが、どうにか官僚達を言いくるめて、場を静めたのだろう。
謝りに行くところが増えてしまった。
上司がバカな真似して申し訳ない――と。

「あー……早くシホ戻ってこねーかなー……」

何よりもまず、ミリアリアに謝りたい。
声が聞きたい。
これから大仕事が始まってしまう。その前に声を聞いて、謝って……出来れば今日の穴埋めまでこじつけたい。
そんな感傷的気分を吹き飛ばすような衝撃が、突如イザークから放たれる。


「今頃謝ってるかもな」


今、イザークはとても不思議なことを言った。

シホが謝る?
誰に?

衝撃が強すぎて、すぐさま対応することが出来ない。

「どうした?」
「……シホが謝るって、ミリアリアに?」
「他に誰がいる」

言い切るイザーク。
ディアッカの目は……死んでいた。

「なんでシホがミリアリアに電話すんだよ!」
「だから言っただろう。彼女に対しては申し訳ないと思ってると――」
「余計こじれるだろうが!! お前、乙女心っつーの、分からないか?!」
「俺は男だ! 乙女心など知るかッ!!」

イザークの、イザークによる、イザークたる発言に、力なく崩れ落ちるディアッカ。
最悪だ。もし本当にシホがミリアリアに電話をしていたら……考えるだけで背筋が凍りつく。
二度とお目通り願えないかもしれない――そんなパターンさえ頭をかすめた時だ。

「ミリアリアと、連絡取れるのか?」

いつの間にか、アスランが傍にいた。
彼はディアッカに詰め寄ると、もう一度。

「彼女と連絡取れるのか? ディアッカ!」
「……? 取ろうと思えば取れるけどよ……何なんだ? 一体」
「こっちから、犯人と接触できるかもしれない」

『……犯人?』

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