「馬鹿者があっ!!」

声が飛び、アスランとディアッカは反射的に身を縮こませた。なかなか豪勢な部屋に作られた対策本部の扉を開けた瞬間に怒鳴られたら、誰だってそうなるだろう。
怒鳴った人物はすぐに分かった。が、声の主を見つけた二人は,更に驚く羽目になる。
まあ……怒鳴ったのはイザークなのだが。

何故か彼は、我が物顔で指揮官席に座っていた。
念のため確認しておくが、彼はオーブの人間ではない。

「イザーク……何でお前が――」
「それはこっちの台詞だ!!」

イザークは容赦なくアスランに掴みかかる。

「貴様、ボディーガードだろう?! 仕事一つまともに出来なくなったのか!!」
「それは――」
「言い訳か? まさか貴様、自分のミスを棚に上げて、言い訳しようとかしてないだろうなぁ!!」
「――」

場が静まる。誰も何も口を挟まない。
全くもってその通りだ。自分は、カガリを守るためにいたというのに。
そんなアスランに、シホが追い討ちをかける。

「情けない」
「お前が言っていいことじゃねーだろ、それ」

あきれ果てた一言に、ディアッカはアスランの擁護に回る。

「こいつだって、好きで守れなかったわけじゃねーんだ。少しは優しい言葉でも……」
「つまり、甘やかせと?」
「そうは言ってないだろ」

少しずつ……少しずつ、二人の間に険悪な空気が生まれてくる。

「ただちょっと、気遣いの一つも見せてやったって」
「こういう場で飴はいらないと、隊長から教わっていますから」
「はっはっはっ。シホさん必殺『隊長病』の始まりですか」
「最高の褒め言葉ね」

ジュール隊には分かる。二人が今、臨戦態勢に入ったことが。
しかしアスランが、そんなことを知るはずもない。

「……おい、二人とも……」

今度はアスランが、変な方向に向かいつつある二人の論争を収めようとする。
おかげでフォローされてる側が間に入るという、なんとも不思議な構図が出来上がった。

「よせ、今は……」
「あなたにとやかく言われる筋合いはありません!」

頭に血が上りつつあるシホから、一喝が入る。

「無能な男に用はありません。邪魔!」
「な――」
「――シホ」

アスランが憤慨の声を上げ――同時にそれまで言い争いを見ている側だったイザークが動いた。
視線が集中する中、彼は一言だけ告げる。

「言いすぎだ」
「申し訳ありません、ボディーガード殿」

鶴の一声とはまさにこのこと。イザークの一言で、シホはアスランに対し、いとも簡単に頭を下げた。その切り返し方がまた素晴らしすぎて、アスランはどうして良いのか分からず、

「……何なんだ? 彼女は」

思わずディアッカに意見を求めてしまう。
すると聞かれた当人は、腕を組み、あっけらかんと言った。

「ああ、気にすんな。あいつ、正月の書初め大会で『ジュール隊長・命』って書いたキワモノだから。ちなみにテーマは『今年の抱負』」
「あら、正々堂々『みりぃらぶ』って書いたのは、どこのどなただったかしら」

バチバチ飛び散る火花を前に、アスランは肩を落とした。

「……どっちもどっちだ……」

うなだれたくもなる。こっちはカガリが誘拐されて、こんな争いに付き合っている場合じゃないのに。
また変な言いがかりを付けられない内に離れておいた方が良い……そう思ったアスランは、周りの人間から話を聞き始めた。

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