「……なんで……」

そこは議事堂。ミリアリアが仕事でよく来る場所だ。朝も来た。昼までこの中で、カガリの取材を行なっていた。
そして……午後から外交協議の行なわれていた場所。
もしかしたらディアッカは、まだこの中にいるかもしれない。
彼がここに来る事は分かっていたけど、あえてフライングで会いに来たりしなかったのは、約束を――待ち合わせをしたため。
なんせディアッカと『待ち合わせ』なんて初めてのことだから。
とても待ち遠しかった、今日の夜七時という時間。

……どうやらミリアリアは、自覚していた以上にディアッカに会うのを楽しみにしていたようだ。
隠された心情が発覚して――余計に腹立つ。


会いたいけど、会いたくない。


怒りと恋慕、二つの心が絡み合い、彼女は一歩を踏み出すことも、足を引くこともできなくなっていた最中のこと。議事堂の外、ミリアリアの背後から、声がかかった。

「ここで何をしている?」

それは見覚えのない男だった。服装と襟元のバッチから、カガリ付きの秘書とだけ分かる。ただ、カガリの秘書は「二人」だったと記憶している。
記憶に全く無い、第三の「国家元首の秘書」の姿は、どうも違和感を感じられた。

「ここは民間人が入って良い場所じゃない」
「……分かって、います」

男への不審感を拭いきれず、つい反抗的な態度に出てしまう。特に重要会議の真っ最中だ。自分達に「不利益」な輩が現れても不思議ではない。
しかし、それにしては、数メートル先にある議事堂正門を警備する二人の職員は、こちらに動いてこようとしなかった。ミリアリアの面は割れている。中に入るには手続きを取らないといけないため、敷地内侵入を試みれば止められるだろうが、外にいるだけなら大目に見てくれている。
こちらをチラチラ見ながら、どちらも動こうとしない警備の人間。ということは、この男も警備職員と顔なじみなのか。
そんな考えが頭の中でまとまった時だった。

「ミリアリア?!」

今度は正門から声をかけられた。
それは、議事堂を出ようとするカガリのものだった。

「やっぱり、ミリアリアじゃないか!」

驚いたように、カガリは足を速める。一歩後ろをつくように、アスランも一緒にやって来た。その後ろには、良く知ったSPと秘書たちの群れ。彼らは彼らで、多角的にカガリを見守り、周りに目を配っている。

「どうしたんだ? お前。ウームも……お前、さっき帰らなかったか?」
「帰っていられませんよ。今日は徹夜になりそうですからね。公邸に備蓄されている用具がどうも手に合わなかったので、家から取って来たところです」
「ああ、そうか。ま、頑張りすぎるなよ?」
「はい」

ウーム、と呼ばれた男は、カガリにとても親密に話しかけられている。
どうやら自分の取り越し苦労だった、とホッとして……ミリアリアはまた、うつむいてしまった。

「……で、ミリアリア。お前、ディアッカどうしたんだよ」
「カガリ……」

途端にミリアリアから、たくさんの涙がこぼれ始めた。
その姿に「何か」を感じたカガリは、優しく頭をなでる。

「……こんな所で立ち話も、な。とにかく、こっち来い」
「…………うん」

促され、ミリアリアは正門へと向かっていった。

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