《いや、お前が『ミリィ』だとして、話したことなど……》
「一度だけ、通信を受けてます。それに、話は良く聞いて――」

そこでミリアリアの声が止まった。
互いはまるで、前から知っているような言いぶりをされている。
二人は、ほぼ同時に理解した。

《……ディアッカ、か》
「……しかいない、わね」

お互いの接点など、あのお調子者しか存在しない。
思わず二人は、大きなため息をついた。


――一体どんな情報流してるんだ、あの男は――


自分に流れてくるそれの質が質なだけに、どんな噂を撒き散らされているのか心配になってくる。
そこまで考えて――ミリアリアはハッと思い出した。イザークと、のん気に話している場合ではないことを。
彼が携帯に出るということは……ディアッカは?

「そうよ、ディアッカ……ディアッカは?」

声は急に真剣なものに変わった。

なぜディアッカは、電話に出ないのか。
まさか……出れない状況にあるんじゃ……

そんなミリアリアの心配とは裏腹に、イザークはあっけらかんと言いのける。

《聞こえないか?》
「?」

突き放すような声。
必死に耳を澄ますと……


《△□×▽○!!》
《■○△×□!!》


電話が遠すぎて、内容まで聞き取ることはできないが……奥の方からはっきりと、男女の怒鳴り合いが響いてくる。

ああ、よく知っている男の声だ。
『奴』はとても元気らしい。
同時にミリアリアのこめかみに、うっすら血管が浮き出てくる。

「何してるんですか? そのバカは」
《部下と喧嘩中だ》
「そーですか」

ミリアリアはようやく答えを知った。
つまりディアッカは、女の人と仲良く口論なんて繰り広げているおかげで、自分のことなど、頭の中からきれいさっぱり消え去った、と。
おかげで自分は、そこそこ寒い空の下、三十分以上も待ちぼうけを食らっている、と。


むかつく。


《ディアッカと代わるか?》
「いえ、いいです。すみませんでした、何回もうるさくして」

そこで彼女は電話を切った。
――静かに。
後に残るは怒りのみ。
携帯が壊れるんじゃないかと思うほど強く握りしめた拳で、瞳を拭う。

手の甲に、雫。

あんな奴、もう知らない。
二度と待ち合わせなんかしてやるもんか。
二度と「会える」ことを喜んでなんかやるもんか。
逃げるように公園を飛び出して……
なのにたどり着いたのは、家ではなかった。

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