「ふざけないで!!」
「誰もふざけてねーよ!!」
「貴方の存在全てがふざけてるわ!!」
「そりゃそっちじゃねーか!!」


響く怒号はシホとディアッカのもの。
シホが始めた片付け云々の説教は、ものの数秒で、ただの口喧嘩に切り替わってしまった。
片付ける片付けないの話は、どこかに飛んで行って、それっきり。今の二人にとって大切なのは、いかに完膚なきまでに相手を打ち負かせるか。
さすがに他の隊員達も、二人を止めた方が良いとは思っているが、止めに入れる様な空気ではない。隊長自ら一喝でもしてくれれば止まるのだろうが、悲しいかな、尊敬すべきジュール隊長は、何やら携帯片手に真剣な面持ちでお話し中だ。

「大体、隊長を呼び捨てにするなんて、一般兵として許されることじゃないわ!!」
「はっは〜。つまりシホさんは、ジュール隊長を『イザーク』って呼べる俺が、心底羨ましいと」
「くっ……隊長を侮辱する言葉……許せない!」
「誰が侮辱したよ」

シホの的外れな物言いに、一瞬ディアッカは冷静になった。冷静になった頭でふと時計を見て……あれ? と思う。

六時過ぎを差す時計の針。
おかしな違和感が頭を廻る。今が六時過ぎの訳がない。
シホに因縁をつけられた時、あの時すでに、針は六時を回っていた。
となると……

「……なあ、今何時だ?」
「あの時計を信じるなら、六時ね」

ディアッカが静かになったおかげで、シホのテンションも下がったらしい。
彼女は腕を組み、続けた。

「――朝から止まってるらしいけど」
「はあっ?!」
「ちなみに、会議終わった時点で、七時近かったわよ」
「なにぃ?!」
「で、現在この時間」

勝ち誇ったように腕を見せるシホ。その腕には可愛らしい腕時計がある。
その時計を信じるなら、ただ今の時刻――七時四十分ジャスト。


待ち合わせは七時。
今、七時四十分。
――血の気が引く。

「携帯――」
「これか?」

慌て、鞄の中にしまい込んだ携帯電話を探し出そうとするディアッカ。すると、なぜかイザークから声が飛んだ。見れば、手の中にディアッカの携帯がある。
……なぜイザークが持っている?
疑問に思ったが、次の瞬間、それすら聞いている余裕が無いことを知る。

「早く行かなくて良いのか? だいぶ怒ってたぞ?」
「――くそっ!」

視界の端で、イザークが誰かと電話で話しているのも見えていた。言葉から、相手がミリアリアだと、容易に想像もできる。
連絡無く待たされて、相当怒っているミリアリア――その光景が頭に過り、彼はコンマ一秒すら無駄に出来ない勢いで、部屋を飛び出していく。
残されたイザークは、ぽかんとする。開けっぱなしの扉を見て、自分の手を見て、もう一度扉を見て、呻いた。

「……あいつ、持ってかなくて良かったのか……?」

彼の手の中には、まだディアッカの携帯があった――



NEXT>>>
[〜心情〜]


*前次#
戻る0

- 9 /67-