贈る相手はいない。
いないけど――憧れる存在。
小さい頃から、レイはどこかで『母親』を探していた。いないものだと分かりながら、なおも『家族』を欲していた。
誰にも言ったことは無い。育ての親・デュランダルにすら話したことの無い、許されぬ願望。

家族が欲しい。
父親は――もちろん、ギルバート・デュランダル。
母親は――


「……何を考えている?」


自問し、首を横に振る。
ありえないことだ。許されないこと。
『彼女』に母親象を求めるなど――……
……しかし、当てはまるのは彼女しかいない。このペンダントだって、『彼女』を思い浮かべて買ったものだ。
渡せるはずないのに。

「……そろそろ戻るか……」

踵を返すレイ。瞬間、ポケットに入れようとした小箱が、手元からするりと落ちてしまった。
箱は転がり、側を通りかかった人物の足元で止まる。
その人物を確認するや、レイはぎくりと身体を強張らせた。


「あら……レイ、何か落としたわよ?」


デュランダル邸に私用で来たであろうタリアである。彼女は小箱を拾うと、中から姿を覗かせているペンダントを食い入るように見つめてしまった。
レイは目線を落とす。顔を上げることが出来ない。
だって彼女は……『彼女』。
レイが『母の日』から連想した、唯一の『女性』。
本人にそんな意識があるとは思えないが、タリアはレイに、よく『母性愛』を与えてくれた。

仕事柄、タリアはデュランダルと一緒にいる機会が多い。そして幼少期のレイは、ずっとギルバートと行動をともにしていたため、タリアと接する機会が多かった。
だから、憧れた。
思っていた。
ずっと感じていた。
タリアが自分の母親なら良いのに――

「綺麗ね……誰かへのプレゼント?」
「……いえ」
「……じゃ、レイが使うの?」
「違います。それは……貰い物です」
「それはまた、変わった趣味の贈り主ね」

明らかに女性向けのアクセサリなものだから、タリアは苦笑いをもらすだけ。
それを見るや、レイは本音をこぼしてしまった。

「困っています」
「は?」
「それを……誰かに譲りたいのですが……」
「貰い物なのに?」
「……俺にくれた人も、誰かに譲ってくれと言って、渡してきたので」

真実を隠そうとすると、嘘がどんどん溢れてくる。
でも、知られたくない。
自分がどうしてそれを手に入れたか、など――

「何? いわく付きの品?」
「違います。向こうも贈る相手がいないのに買ってしまって、処理に困ったと」
「まあ……」

ついつい本当のことまで混ざってしまう。
とにかく、どうにかしてこの危機を乗り切りたい。そう強く思った時だ。

「なら、私が貰おうかしら」
「……え?」
「好みの感じだし、貰い手がいないんでしょ? なら欲しい、って思ったんだけど……ああ、それとも本当はもう居たり――」
「いえ、いないです」

きっぱりと断言するレイ。するとタリアは「良かった」と言ってペンダントをつけた。
首もとのカーネーションが、きらきらと輝いている。

「どう? 似合う?」
「ええ……」

レイは小さく頷いた。
それは、一瞬だけ憧れた構図。
憧れが――現実になっている。

「ありがとう、レイ」
「いえ、こちらこそ――」



――ありがとう――……お母さん……――



口に出せない願望で、胸が痛く締め付けられた。





-end-

+結びに一言+
母の日に、母を求めて……そんなレイがタリアさんに『母親』を見るお話。
期せずして渡せた母の日の贈り物。
――貰ってくれて、ありがとう――


お題配布元→イロハ-CNP-イロ

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