天使の導き



「ミリアリアさん?! 何してるんですか!! 危な――」
「大丈夫。あいつは撃たない」

背を向けたまま、ミリアリアは断言する。

「こうしてる限り、あいつがシン君を攻撃することは無いから。早くレイ君を追って」
「俺じゃなくて、ミリアリアさんが!!」
「レイ君、危険なことしようとしてる」

ミリアリアの言葉に、シンは息を呑む。

「私を一緒に連れて行けないからって、この場は自分が何とかするから、シン君と脱出しろって……そう言って、私をコンテナの後ろに隠れさせたの」

目が、レイの消えた通路を捉える。
すでに彼の機体は見えない。けど、あの奥にレイはいる。
まだ、あそこにいる。

「シン君、レイ君を止めて。助けられるの、シン君だけだよ!」
「俺、だけ?」
「友達でしょ?」




重なる声。
ミリアリアの「友達」と。
ステラの放った「トモダチ」という音が。




「さあ、早く行って。私は大丈夫。あれ、よく知ってる奴だから」


頑として、ミリアリアは動こうとしない。
目の前のMSは、ただ、こちらの状況を静観するだけ。
悩んでいる時間は――無い。


「早く!」
「……必ず、迎えに来ます!」


ゆっくり席に座り、ハッチを閉める。


「ごめん、ミリアリアさん……」


呟きを残し、シンもドッグへの通路を走り出した。





そして。
佇むMSのハッチが開く。


最初に見えたのは金色の髪。
続いて見えたのは緑の軍服。
ミリアリアは、全く驚かなかった。
当たり前だ。搭乗者の正体など、声を聞いた瞬間、あっさり分かってしまったのだから。



「久しぶり」
「二年ぶり、か?」
「そうね」



二年である。
二年間、全く会ってなくて、声すら聞かなかったのに、たった一言で分かってしまうとは。

現れた男は、とても厳しい目線をミリアリアに向けた。


「あんた、こんな所で何してるの?」
「そりゃ、任務に決まってるだろ?」


彼はMSから降りると、ミリアリアの目前で足を止めた。
腕を目線の高さまで上げて。
その先にあるのは――拳銃。



「これは何の冗談かしら? ディアッカ」
「冗談で、こんなことしねーよ」



ディアッカが手にする銃口が、捉えるのはミリアリアの額。
ミリアリアとディアッカ。
二年ぶりの再会は、こんな形で訪れた――





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