天使の導き



スイッチが押される。
ロックが全て外され、コックピットがまばゆい光に包まれる。
メインモニタを見据えるシンに、迷いは無い。



「デスティニー……力を貸してくれ。壊す力じゃない。『守る』力を――」



呼応するかのように、デスティニーの眼が光る。
シンに応える様に、力をふるう。

それは、今までに無い感覚だった。まるで自分の手足のように機体が動く。久しぶりに乗ったのに、以前以上に扱いやすく感じるのはなぜだろう。
コックピットは狙わず、手足を軸に、シンは戦力を奪っていく。

「レイ、平気か?!」

あらかた倒し、レイを――レジェンドを見やる。彼はいつの間にか、格納庫とドッグを結ぶ通路の入り口に立っていた。

《元気そうだな、シン》
「なんだよ、こんな時に! ……でも、お前が無事で良かった……」

無傷のレジェンドにシンは安堵し、彼に近付く。
だが、二歩進んだところで、レイは驚くべきことを言ってくれた。

《待て、シン。その前に、ミリアリア・ハウを回収してくれ》
「は? ……まさか、乗ってないのか?!」
《彼女を連れて行くわけにはいかないからな》
「って――……」

シンは辺りに視線を走らせる。すると、コンテナの陰にミリアリアを発見し、慌ててハッチを開けた。
驚きもするだろう。この状況で、レジェンドが起動したのだ。レイと一緒に、レジェンドに乗ってると思うのが普通だ。

「何やってるんですか、そんな所で――」
「シン君、後ろ!!」

かすかに届くミリアリアの声、そして後ろを指差す仕草で、シンはレジェンドに目を戻した。
レジェンドが、通路の奥へと消えていく。

「くっそ、レイの奴!」

何考えてんだよ、あいつ――
苛立ち、シンはハッチを叩いて、




《そこまでだ!》




格納庫に三度声が響き、二人は身体を強張らせた。
MSが一機、佇んでいる。
シンとレイで倒したはずのMS達の中、無傷で佇み、武器を手に声を放つ機体が一機だけあった。
全部倒したはずなのに――と、シンは小さく舌打をする。


《坊主、悪いがその機体、明け渡してもらおうか》


レーザーナイフをシンに向け、警告する。


「……ちょっと待ってよ……」


呻くはミリアリア。
スピーカー機能を使って勧告しているため、彼女の耳にもしっかり内容は届いていた。
信じられない眼差しでMSを見、そしてもう一度、シンを見る。彼は、身動きが取れなくなっていた。

このままじゃ駄目だ。
せっかく手の届きかけたレイが、また遠く離れていってしまう。



「――あんたなんかに、邪魔する権利なんて無いっ!!」



叫び、ミリアリアは動いた。
デスティニーの前へ。
シンをかばうように、大きく手を広げて。


*前次#
戻る0

- 82 /189-