天使の導き 「そうか……逃がしたか。あいつめ、一人前にも“選択”なんて高等技術を身につけたか」 「……何がおかしいんだ?」 厳しい視線と共に、グランは声を絞り出す。だがライドンは、ツボに入ったのか――笑いを堪えることが出来ず、必死に抑えながら、手でグランを制した。 「すまない。あいつがそんな成長を見せるとは思わなくてな。デュランダルが知ったらと思うと……想像するだけで楽しくなる」 《良いのかよ。そんな、悠長なこと言ってて》 眉間にしわを寄せ、アネハも訊いた。 優秀な手駒が、これからの重要な駒を連れて逃げたと言うのに、この余裕はなんだろう……と疑問を感じる。 《良いのかよ、あの女、逃げても》 「それは困るな」 《……じゃ、何でそんなに平然としてられるんだ?》 「逃がしたのがレイだから――かな? どうせ二人は、一緒にいるだろうし……」 カタカタとキーボードを打ち、メインモニタに見取り図を映し出す。すると、ある一角――ある通路を、ドッグに向かって動く光の点滅が現れた。 「レイには発信機が着けてあってね。本人も気付いていないはずだ」 つまりこの場所に、レイとミリアリアがいる、ということになる。 「言っただろう? 俺はあいつを信用していないと」 背筋の凍りつくような微笑を向けられ、グランは――不覚にも――恐怖を抱いてしまった。そんな彼を他所に、ライドンは警備の人間と連絡を取り、格納庫に人員を向かわせる。 そして、アネハも。 「奴らだけじゃ、確実にあしらわれて終わるな……アネハ、お前もドッグに向かってくれ」 《分かっ――》 ――ぶつッ。 音を立てて消える画面。 ライドンが切ったのでは無い。彼はまだ、切断キーに触れてすらいない。 なのに突然、通信回線が途絶えた。 「……故障か?」 「いや……それにしては……」 不審すぎる切れ方。おかしい、と感じるライドンの通信機が再び音を発したのは、それから十秒ほど経ってからの出来事。 「俺だ。何かあったか?」 《会長、それが――》 通信モニタの映像が切れたまま、通信を回してきたのはデュッセルカンパニーの副社長だった。 スピーカーも効かないので、ライドンは仕方なく受話器で連絡を受け――見る見る顔色を変えていく。 「……分かった。お前は今……ああ、それで良い。早く降りろ」 そして静かに受話器を置く。 瞳に、怒りにも似た感情を乗せて。 ほぼ同時に、今度はグランの元に連絡が届いた。 《お頭! 大変です!!》 「どうした? 一体何が――」 「ザフトに囲まれたな?」 ガタン、と音をたてて立ち上がり、ライドンが訊く。 《は、はい……戦艦が二、他にもMSが十数機……まだ続々と出てきてます》 「何があったんだ、ライドン!」 訳が分からず、グランはライドンに掴みかかる。それでも彼は冷静に――いや、冷静さを装って、低く呻いた。 「ザフトにやられた。あの古狸め……厄介な奴が代理になったと思っていたが、ここまでやらかしてくれるとは」 グランの手を振り解き、スーツを正し、彼は端的に説明する。 「強制捜査が入っただけだ。ただし、議会の承認の下、ザフトも動かして――ひどく大々的にな」 |