天使の導き







「不満そうだな」

私室で何やら書類を眺めながら、ライドンが呟く。その傍らにいるグランは、物怖じする様子も無く、彼に問い返す。

「ライドン。お前どうして、あの坊やを引き込んだんだ?」
「レイのこと、か?」
「戦力にはなるが……気ィ許してると、痛い目見るぞ?」

それは、アネハの助言が引き金になっていた。
彼の考えをそのまま受け入れる気にはなれないが、そこを差し引いても、レイを信じてはいけない、というのがグランの見解である。
しかしライドンは、あざ笑って宣告した。



「誰が、気を許せと言った?」



グランの言い分はおかしなことだと、目が言っている。

「……仲間、なのにか?」
「仲間? 笑わせるな。あれはただの駒だ」

口角を上げ、ライドンは言い切った。

「奴はデュランダルの駒だった。そして俺は、デュランダルの目指した未来と同じものを作ってやろうと言ってるんだ。なら同じ様に、立派な駒として動いてもらうのが筋ってものだろう?」
「お前、本当にデュランダルが嫌いなんだな」
「……まあ、否定はしないさ」

一瞬凍りつく空気。だがそれすら、ライドンは一蹴する。
足を組みなおし、グランを見上げ、彼は続けた。

「それに奴は、例のチップの隠し場所に、一番近い」
「けどよ、あいつが関わった場所に、それらしい物は……」
「デュランダルが隠したんだ。あいつの身の回りとは限らないさ。だが、デュランダルが隠す場所に見当をつけやすい位置にいるのは、間違いなく、レイだ」

と言われても、グランは思ってしまう。

「……気付いたとして、俺らに言うとは思えないけどな……」
「言わないだろうな」

その言葉に、さすがのグランも顔を引きつらせた。
何を言ってるんだ? と思ってしまう。
しかしライドンは、余裕満面の表情を崩そうとしない。

「言わないだろうが――手に入れようとはするだろう? なんせデュランダルの『形見』とも言える代物だからな」
「……まさか……」
「そう。その時が来るのを、辛抱強く待ってるのさ。奴を見張ってるのも、色々な場所に連れて行ってるのも、生前のデュランダルの資料を与えてやってるのも」


そのために、三ヶ月前、崩落するメサイアからレイを助け出した。
生きる意欲を無くしたレイを、「ギルバート・デュランダル」という餌をちらつかせ、引き込んだ。





レイに、宝の在処を気付かせるために。





「お前……」

震えながら、グランがライドンを見下ろす。
その時――突然、ライドンの手元の通信機が光り輝いた。


「どうした?」
《やられた!!》


モニタに映るアネハの言葉に、ライドンは小首をかしげた。

「……もう少し、分かりやすく説明してくれないか?」
《だから、やらかしたんだよ! あいつ、女連れて姿消したぞ!!》
「間違い無いのか?!」

グランは顔を青くし、モニタに顔を近づけた。

《間違いも何も、部屋はもぬけの殻だ。ったく、だから言ったのによ……》
「……あいつ、というのはレイか?」
《しかないだろ……》
「そうか、レイか……」

フッと、ライドンは鼻で笑う。


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