生きるための選択


「そもそも、いつの間にそんな話になりましたの? 私、聴いてませんわ」
「君に報告する義務は無い」
「あろうが無かろうが知りたいものは知りたいですし、そんな話が通っていたとしても、私、貴方の態度は不愉快です」
「……ラクス?」

何か、違う。
いつものラクスと、どこか違う。アスランは、ラクスの微妙な違和感を感じ、眉間にしわを寄せた。
あまり見られないラクスの感覚。これは、まるで――……

「……焦ってるか?」
「開き直っただけですわ」

目を細め、遠くの方を見て、ラクスは呟く。



「私、これまで約束を破ったことがありませんの」
「――は?」



突拍子も無い言葉に、アスランから変な声が出る。
それに構わず、ラクスは続けた。


「生まれて初めて破る約束が、心の支えにしてきたことになるとは、思いもしませんでした」
「ラクス? どうした? 何があったんだ??」
「……ただ、気付いただけです」

様子のおかしいラクスを心配するアスランだが、返ってくるのは微笑のみ。
儚い歌姫の微笑だけ。

「……まあ、色恋は別として、安心させてあげて下さいな。軍事裁判にかけられた上、その後の動向が不明では、相手が恋人でなくても心配します。それとも――……貴方の中では終わっていないから、封じ込めた想いが再燃しそうで、怖いのですか?」
「……まったく、君って人は……」

違う――と切り捨てられるかと思いきや、意外な所で素直になられ、ラクスも拍子抜けしてしまった。

「そうだ、ただ怖いだけなんだ。一人で勝手に盛り上がるのがな」

ほんの少し前まで呆れることで回避した問題なのだが、図星の中核を突かれ、アスランは白旗を上げることしか出来なくなった。
怖いだけ。臆病なだけ。
彼女の中で終わった恋が、自分の中では燃え広がって、抑え切れなくなるのが怖い。
簡単に切り捨てられるほど、半端な想いなど抱いていなかった。

「……そうですか」

ラクスもまだ何か言いたい節はある様だが、アスランの顔を見て、言葉を飲み込んだ。
その代わり、一言告げる。




「なら私は、アスランのために歌いましょう」




それは、決意。

「アスランのために。私を慕って下さる全ての方のために。キラのために。…………自分のために」
「ラク……?」

強すぎる眼差しは、アスランに、声をかけることすら躊躇させる。


そんな二人を、離れたところからクルゾフが眺めていた。
とても満足そうに、アスランとラクスのやり取りを見守って。
その横ではカルネアが、まるで監視するように、クルゾフを見つめていた――……





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