歯車の噛み合う時


「なに?」

見ればそれは、白い帽子だった。

「どこから……」

ミリアリアは、持ち主を探して辺りを見回す。
その視界に、一人の少年が舞い込んで来た。
立ち尽くし、呆然とこちらを見る男の子。

「……君、の?」
「…………」

鮮やかな真紅の瞳を持つ少年は、力無く頷いた。


誰かを思い出させる瞳。


〈この子……〉


年の頃なら自分より二つ三つ下に見える少年の瞳は、ミリアリアに悲しみを思い出させた。
しっかりと帽子を持って歩み寄り、傍で見て、確信を得る。

彼の瞳は……ヤキンでの戦いが終わった直後のキラと、同じものだ。
全てに疲れ果て、生気を失った表情。

「はい」
「……どうも」

表情を変えず、少年は帽子を受け取る。彼はそれを握り締めたまま、ミリアリアから視線を外した。
目は、林へと向けられる。

「何、してるの?」
「…………」

少年は応えない。ミリアリアの声など、耳に入っていない……いや、耳を通り抜けているように。

「……ねえ」

彼女に、この少年を放っておくことなど出来なかった。
だってこんなにも、悲しい瞳をしているのに。
頭から、写真の件が消えてなくなる。

「きみ――」

それは、再度少年に声をかけた時だった。

「……?」

彼が、ある一点を凝視し始める。

「どうしたの?」

ミリアリアも見る。最初はよく見えなかったが、少年の表情が気になり、もう一度しっかり見て――

「!!」

物陰に、男が見える。一人じゃない、何人か……数までは分からないが、こちらの様子を窺っているようだ。
彼女の背筋に、何か、冷たいものが走る。
この感覚は何だろう。男たちから放たれる、正体不明の『威圧』感は。

「う……あ……」
「どうしたの?!」

直後、少年の様子が急変した。
表情は恐怖で歪んでいる。
――怯えている。

「っ……あ……うわあああああああっ!」
「あ、君?!」

叫び、少年が走り出す。当然ミリアリアは、彼を追いかけようとしたのだが、

「待て、女ぁ!!」
「え?!」

同時に、男達も飛び出してきた。自分を呼び止める声に驚き、彼女は固まってしまう。
どうやらこの男達、ミリアリアに用事があったらしい。


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