生きるための選択 しかたなくドックに向かうレイの耳には、ミリアリアの言葉が反響していた。 ――自分で選んで―― 選ぶとは、どうすれば可能なのか。 自分は何を「選ぶ」べきなのか。 分からない……自分が分からない。 そもそも自分は、なぜ生きているのだろう。メサイアでデュランダル、タリアの二人と命を終わらせるはずだったのに、結局は生きて、ライドンの庇護下にいる。 自分の意思は、ほとんどない。彼の語る「デュランダルの示した新世界の創造」にも、デュランダル自身がいない以上、さした魅力も感じられない。 強いて言うなら、今までは、ライドンによって用意されたデュランダルの「資料」を守るためにいた。 彼の生きた足跡を守りたかった。消したくなかった。 そのために、流されるように、この場に留まっている。 レイは今まで、自分で道を選択したことなど、片手で足りるほどの数しか無くて―― 「――あんなガキ一人に、てこずってんじゃねーよ!」 「!!」 上の空で歩いていたレイの耳に、突然アネハの声と、何かを叩き付ける様な音が響き渡った。顔を上げれば、銃数歩先にオレンジ頭を発見する。 見つかれば絡まれるのが容易に想像出来たレイは、物陰に身を隠し、彼がいなくなるのを待った。 ちょうど自室から出てきたらしいアネハは、いつも以上に荒れていた。どうやら扉に八つ当たりしたようで、自動で開閉する扉は、衝撃でシステムに異常が起きたのか、開いたまま閉まらなくなってしまっている。 「……ったく、どいつもこいつも使えねー…………」 アネハはキーパッドで扉を手動に切り替えると、レイとは反対方向に歩いていった。 〈……ガキ?〉 不思議に思いながらも、再びドックの方へと歩き出したレイの目に、ゆっくり開いていく扉が留まった。どうやら手動モードに切り替えた扉を、アネハはしっかり閉めていかなかったらしい。レイは気が進まないながらも扉を閉めてやろうとし――ちらりと見てしまった暗い部屋の中に、小さな明かりを見つける。 位置的に――机の上に置かれた電子モニタ。 さして興味は無かった。 彼のパソコンになど、全く興味は無い。なのにレイは、部屋の中に侵入していた。 そこに映し出されていたのは、ライドンからの通達文。 ――衛星内への侵入を許した。レイに気付かれる前に、早急に始末しろ―― 添付されるのは、シンの顔写真。 レイは――愕然とした。 〈シンはこちら側についた〉 頭に響く、ライドンの声。 〈嘘に決まってる〉 頭に響く、ミリアリアの声。 分かっていたことだ。ライドンが、自分を利用しようとしていることなど。 ギルバート・デュランダル同様、自分を「駒」としか見ていないなど。 胸の奥が、キリキリ痛む。 どうする? シンは逃げている。 きっとここに向かってる。ミリアリアを助けるために。 なら、自分はどうする? ここにいたら、シンの「敵」になりかねない。 敵。 敵? シンの敵になる――?? ――嫌だ。 レイは三度頭を振ると、アネハの部屋を飛び出した。 色々思い出す。頭が破裂しそうなほど、沢山の思い出が蘇る。 一つ一つが大切なもの。 一つ一つが、かけがえの無い存在。 このままでは、それら全てを失うことになる―― レイはこれまで、自分で道を選んだことなど、ほとんど無い。 こと「自分の生き方」を選択したことは皆無だとしても、でも、その中で彼は生きてきた。 沢山のものに触れあった。 ギルバート・デュランダルが絶対の存在だったレイにだって、彼以外にも失いたくないものは沢山あるのだと、思い出が教えてくれる。 戦った日々が。 シンやルナマリアと過ごした日々が―― 「あ、おかえりレイ君。早かったわね」 「のんびりするな!」 自室に戻り、ミリアリアの手を引くと、レイはそのままUターンする。 突然のことに、彼女は目をぱちくりさせて、 「れ、レイ君?! いきなり何――」 「逃げるんだ!!」 放たれる言葉に、衝撃を覚える。 その後は、ただ引かれるまま、走るだけ。 彼は選んだ。自分の進むべき道を。 自分で掴むべき「選択」を。 |