生きるための選択



頭の中が真っ白になる。
考えたこともなかった。
なぜここにいるか、なんて。
ライドンに助けられて、デュランダルの思想を現実のものにするために、手足となって働いて。


考えて浮かぶのは、それだけ。
ギルバート・デュランダルのため。


「俺は……」

彼は少し戸惑いながら、何か言葉を紡ごうとして――


ピー、ピー、ピー。


それを遮るよう、l机の上の通信機が音を鳴らす。ランプはドックからの内線だった。

「何だ?」
《レジェンドの新装備が届いた。調整したいから、ちょっと来てくれ》
「分かった」

短い通信を切って立ち上がるレイに、ミリアリアは問いかける。

「……レイ君は、どうしたいのよ」
「俺?」
「君……自分の命のこと、分かってるんでしょ?」
「?!」

思わぬ指摘を受け、レイはハッと顔を上げた。
神妙な顔つきのミリアリアは、やはり、目をそらさない。

「……なぜ……」
「本見て。あと、引き出しの中に、薬、あったから」
「そこまで詳しいとはな」

レイは嘲笑する。

「君はここに居ちゃいけない。ちゃんと、適切な処置を受けないと……」
「適切な処置? そんなもの、どこにある。テロメアを構築する技術があれば、俺達みたいな欠陥品は生まれていない」

絶望の色を混ぜて、彼は断言した。

「生きる場所なんて、どこにもないんだ」
「そんなことない!」

ミリアリアは切り捨てる。

「自分の人生から否定しないで! 逃げないで、考えようよ。自分がどうしたいのか」
「俺は、逃げてなど――」
「逃げてる。考えるのを拒絶してる」

彼女は――踏み込むことにした。
レイの、心の闇の中へ。
もしかしたら、裏目に出るかもしれない……そんなリスクも感じるが、構ってなどいられない。
今、気付かせなければ、引き返せなくなる。

彼は、戻れない所まで進んでしまう。

「考えて。選んで。自分がどうしたいのか。私が君をどうしたいか、シン君が君をどうしたいか、ライドン会長が君をどうしたいか、そんなの全部、抜きにして。レイ君自身は、どうしたいの? 何をしたいの? 何のために、ここにいるの?!」


踏みとどまらせたい思いから出る、まるで畳み掛けるような言葉達。
気付いてほしい。
もっと、真剣に考えほしい。
しかし――


「自分で選んで!」
「……無茶、言わないでくれ……」


ミリアリアはハッと息を呑む。
小さく震え、涙目のレイ。
それはまるで、迷子のような姿だった。







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