生きるための選択






昼夜の感覚が無い。隔離された部屋には時計すら無く、シンと同様、目覚めてから閉じ込められっぱなしのミリアリアもまた、今が何時なのか、そして連れ去られてからどれほどの時間が経っているか分からなかった。
ただ、本棚の前に座り、膝を抱えるだけ。
ふと目を上げれば、ベッドに座り、本を読むレイの姿。彼が手にするのは、もちろん、部屋の中にある「クローン技術」や「デュランダル」に関する書物だ。
彼は時折、彼女にちらりと目をやる。その度に、ミリアリアはレイから目をそらして。

「……俺はお前をどうこうする気など無いが?」
「分かってるわよ」

怯えて目をそらしているのではない。
どう接すれば良いのか分からなくて、目を合わせられないのだ。

「なら、椅子に座ったらどうだ?」
「ごめんね。ここが気に入ってるの」
「本棚の前がか?」
「良い背もたれよ? これ」

言いながらミリアリアは、重い腰を上げた。
目が捕らえるは、巨大な本棚。意を決し、彼女は尋ねる。

「この本、全部君の?」
「……俺を繋ぎとめるための鎖だ」

レイもまた、素直に答える。

「あいつは、俺の弱みを全て知ってる。俺がどれだけギル――……デュランダル議長と親交が深かったかを知った上でこんな物を用意して、この場から逃げ出せないようにしているのさ」
「何のために?」
「……さあ?」

大事な部分を、レイは濁す。ここまできて重要な部分だけ教えられず、ミリアリアは少々不機嫌になりながら、直球で本題を切り出した。

「ライドン会長は何をしようとしているの?」
「…………何を、ねえ……」
「あのさ、私、知る権利くらいはあると思うんだけど」
「権利、か」

一度言葉を切り、座り直し、レイはミリアリアを見る。
彼女もまた、レイを見ていた。
視線が交差する。さっきまで合わせられなかった目を、ミリアリアは離さない。
離してはいけない。
離せない。
何となく分かってきた。ちゃんと目を見て、その奥を見て、彼がどういう人物なのか。


何に、怯えているのか。


先に目を離したのは、レイ。彼は観念した様に、小さく言葉を紡ぎ出す。

「……表向きには、議長の創ろうとした世界を、創り上げること」
「裏があるのね?」
「他にも目的があるってだけだ」
「私を使って、カガリに何をさせる気?」

尋問のように問い続けるミリアリア。だが彼は、大して取り合おうとしない。

「知ってどうする。ここにいる以上、何も出来ないぞ?」
「なら逃げ出すだけよ」
「無理だな」

レイはきっぱり言い切る。

「ここはプラントじゃない。デュッセルカンパニーが造った外郭倉庫の一つだ」
「ってことは、移動手段は……」
「バイパスとドックが一つずつ。しかも、バイパスは始終監視がついている。さあ、これでどうやって逃げ出す?」
「ドックを使えば良いわ。君ならどうにか出来るんじゃない?」

思わぬ提案に、レイは目を見開いた。


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