歯車の噛み合う時




不思議な感覚。
いや、どこも不思議ではない。
ヘリオポリスで学生生活を経験しているミリアリアにとって、衛星の中に自然があって、そこでたくさんの人が生活していることなど、当たり前のことである。
その『当たり前』な風景を、彼女は写真に収め続けた。
手当たり次第――カシャカシャと。

「ふう、疲れたー……」

かれこれ四時間も、写真を撮っては移動を繰り返していたため、彼女の足は棒になっていた。
オシャレなカフェで一服をつきながら、自分の撮ってきた写真をデジタル画像で確認する。

犬の散歩をする人、井戸端会議をする主婦……地球のものと寸分たがわぬ、プラントの『日常』だ。
そう、二つの人種は、同じ『日常』を共有しあえる。
彼女は思わず目を細め――

「……あれ?」

突如、その中の一枚が目に留まった。
それはとある公園を写した写真。たくさんの木々の下、木陰で男が二人、まるで密談している様な姿が写っている。
よく見れば、何かを渡している様な……

「ん??」

画像を拡大し、ミリアリアは目を見開いた。
片方の男に、見覚えがある。

「こいつって――」

カガリから渡された鞄を開き、中の書類を取り出す。そこに、片方の男の顔があった。
ザフトも手を焼く宇宙海賊・ドゴラ――崩壊したメサイアより、[最重要機密]を盗み出したとされる集団の首領、それが、この男。名はグラン・ガイストロ。三十代後半で、類まれなるMS操縦技術を持つらしい。
もう一人の男の顔まではっきりとは見えないが、確実に男が、グラン・ガイストロに黒い正方形の物体――まるでフロッピーの様な物を渡している姿が写されていた。

「……!!」

悔しさから、彼女は思わずテーブルを叩いた。
なぜ、ファインダー越しに気づけなかったのか――自分の目の節穴っぷりに、嫌気が差す。

同時に沸き起こる、知りたい、という欲求。

危険なことはするな――そう言って送り出してくれたカガリの想いは嬉しいし、裏切りたくない。だがミリアリアは、好奇心を抑えることが出来なかった。
彼女はすぐさま、現地へと引き返した。
撮ってまだ、そんなに時間は経っていない。もしかしたら、まだ二人がいるかもしれないと思って。
歩きつつ、走りつつ。わずか5分で戻ってきた問題の公園は、とても広大な敷地面積を持っている。記憶と写真と照らし合わせながら、自分の撮った位置に立ち、もう一度、写真と風景を重ね合わせる。

「ここ、よね……」

合致する世界。
間違いない。ここだ。

しかし、例の二人組は、どこにもいない。

「……いない、かあ……」

話を盗み聞きするなり、後をつけてどこに潜伏してるのかを探り当てるなり、色々やってみたいことはあったが、いないことには話にならない。

「……帰ろ」

がっくりと肩を落として、ミリアリアは歩き出し――


ざあっ。


突風が吹き荒れる。
彼女はとっさに髪を押さえた。

その手に、何かが引っかかる。


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