大切な人のために





「しっかし、すごい本ね」

レイの部屋に一人きり。窓もなければ扉も鍵がかかっており、逃げ出すことも不可能と来て、ミリアリアは暇を持て余していた。
それゆえ、興味はおのずと、部屋に似合わない巨大な本棚に注がれていく。

「どれだけ本好きなのよ、レイ君……」

一体どんな本を読んでいるのか――と本を眺めていって、ミリアリアは言葉を失った。
眩暈がしてくるほど「ギルバート・デュランダル」についての本ばかりなのである。
やれ、デュランダル著書の本だの、やれデュランダルについての特集本だの、関連が無いと思えば、デュランダルのインタビューが載ってる雑誌だったり。

「……もしかしてあの子、議長のファン……?」

と言って、レイが「ギル」という呼称を使ったのを思い出した。確かあの時、「議長」と言ってから「ギル」という言葉を使っていたはずだ。
ギル=ギルバート・デュランダルであることは、容易に想像がつく。

「一体、どういう関係なのかしら……議長とレイ君」

考えながら、下へ下へと目を進めていく。すると、途中からデュランダルの絡んでいない本が出現し始めた。
それは「遺伝子学」の本。
いや、デュランダルの名はどこにも無いが、関係が全く無いわけではない。彼は確か、評議員に選出されながら、遺伝子学の権威だったはずだ。

何気なく一冊、取り出してみる。
かなり古く、色あせた本。どうやら参考書のようだ。
深く読まず、バラバラとページをめくっていくと、突然マーカーの引かれる箇所にたどり着く。

「これって……!!」

引かれるのは、クローン技術についての文面。食い入るように目を通し、とり憑かれたように他の本も読み漁る。
手にした本全て、クローンについての記述があった。
そしてその全てに、読み込んだ跡があった。
最後に、レイが先ほどまで読んでいた本を取り出せば、やはりクローン技術の話。
しかもそこには、クローン体が受ける病例、発作、それらを抑制する薬についても触れられている。

「なんでこんなに、クローンに詳しい……――っ!」

声に出して、一人の男を思い出す。



ラウ・ル・クルーゼ。
顔は知らないが、彼はミリアリアが認識する唯一の『クローン人間』なので、思い出すのも仕方ないと言える――が、



「…………あれ?」



その瞬間、突然、ミリアリアの中で繋がってしまった。
思い出してしまった。
[ラウ・ル・クルーゼ]と[レイ]の名で。
それは三ヶ月前聞いた会話だった。


メサイアから帰還したキラとアスランの会話――……






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