大切な人のために


アスハと同じ選択をした自分の戦いに、意味はあったのか……と考えてしまう。
少なくとも、ステラを守ろうとした時点で、彼は多くの「罪無き命」を見捨てたのだから。

「……………………」

ぐちゃぐちゃの心のまま目を下ろすシンは、ふと、床に白い帽子を見つけた。
倒れた衝撃で転がったのだろう。無造作に取り、埃を払いながら、淵に書かれた名前を眺めて顔をゆがめる。


ここまで来たのは何のためか。
レイに会うためだろう?
なのに、彼には冷たくあしらわれ、ライドンには裏切られ……


唇を噛み、シンは足元に落ちている写真を拾い上げた。
その風景は、ミリアリアと出会った公園のように見える。遠くの木陰に、よく見れば、二つの人影。
コーディネーターの視力は、知りたくない情報を与えてくれる。

これはライドンだ。ライドンが写っている。
その手前には、これまた知っている顔。今世間を騒がせている、海賊団の首領の顔だ。

かの海賊団はシンがまだ士官学校に通っている頃から、ザフトに追われている。

そんな犯罪組織の首領とライドンが会っていた。
この二つの繋がりに、きっとレイも関わっている。



ミリアリアは、連れ去られたまま。


そう。彼女は連れ去られたのだ。



どうする? ここから逃げ出すか??



頭の中に響く悪魔の囁き。だがシンは、頭振って声を払いのける。
出来ない。出来るはずがない。
だって、ほら。
彼にはまだ、やるべき事が残されている。


あんな苦しい顔のレイを見たことは無い。
ミリアリアだって、善からぬ愚行に利用されようとしているに違いない。





そのために、この命が生かされたのだとしたら。





マユが助けてくれた命なんだ。
挫けてなんて…………いられないんだ。


「……………………」


ぐしゃりと写真を握り締めると、シンはレイやミリアリアの消えていったエレベーターに手をかけた。
この下に、二人はいる。
連れ戻さなくてはならない。
横を見れば、都合よく通気口にも似た通路がある。ここを伝えば、暫くは人目に触れずに移動できるだろう。


「……レイ……ミリアリアさん……絶対、連れて帰るからな……」



レイを取り戻すため。
ミリアリアを助け出すため。
シンは、通気口へと潜り込んだ。





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