僕を呼ぶ声





シンは、泣いていた。
瞳から流れる一筋の輝きを拭おうともせず、仰向けに倒れたまま、泣いていた。


右手にピンク色の携帯電話。その中央には、銀の弾薬が埋め込まれている。





それは、シンの心臓を貫く予定だった物。





普段はズボンの後部ポケットにしまっていた。今日だって、朝は定位置にあったのだ。けど、昼過ぎくらいに取り出して、深いことを考えず、ジャケットの[左]内ポケットにしまって……
ここに来る過程の中、一度取り出した携帯は、再び定位置にしまわれることは無かった。
再びジャケットの[左側]の内ポケットに収納され。



そして弾丸を飲み込んだ。



狙ったように、中央にめり込んだ弾薬のおかげで、携帯は使用不能状態である。



そう。この携帯が、シンの命を救ったのだ。
これで、二度目。
一度目は――……戦火から逃げる中、その身を崖下に転がし、シンの命だけを救ってくれた。


「うっ……っぁあ……」


声を殺し、シンは泣く。


もう、聞けない。
妹の声を、聞くことは出来ない。
ルナマリアの家まで行った時、なぜ聞かなかったのだろうと後悔する。
最後の、妹の声を――





――マユがお兄ちゃんのこと、守ったんだよ――





シンは、意識下の世界で聞いたマユの声を思い出す。
彼を襲うのは喪失感。

もう、何も無い。
これまで自分が信じてきた、『戦う理由』を否定された。
最後の心の支えであった、妹の「声」すら失った。



全てが崩れ去っていく。
憎しみは形を変え、耐え切れない悲しみへと変化していく。
今のシンに、それらを受け止める許容は無い。
希望も無い。
あるのは悲しみ。


絶望にも似た悲しみ。





シンはただ、泣くことしか出来なかった――



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