歯車の噛み合う時





同時刻――プラント。

「へ――っくしょぉい!!」
「うわ、汚ッ!!」

指定された席に着くなり、ディアッカは大きなくしゃみをし、傍にいたシホは、一気に数歩、後ずさった。
鼻をむず痒く感じながらも、彼は暢気に言い放つ。

「……風邪か?」
「はっ。あんた、馬鹿は風邪ひかないってことわざ、知らないの??」

未だディアッカに近づこうとしないシホがあざ笑った。続いてディアッカの向かいに座る少年が、コーヒー片手に意見を出す。

「誰かに噂されてるんじゃないですか? 先輩、女の人たくさん泣かせてきたんでしょ?」

彼の名はヤナック・ルー。シホの同期で、ジュール隊二枚看板の片翼を担う、もう一人の『赤』である。そんなヤナックの言葉に反応したのは――シホ。

「泣かせられた、の間違いじゃないの?」
「言ってくれるねえ……」

さすがにカチンときたらしいディアッカとシホの間に、大いなる火花が飛び散り――

「……そんなことより、俺達どうして呼び出されてるんですか?」

二人の険悪なムードを『そんなこと』で済ませたヤナックが、これまたどうでも良さそうに呟く。おかげで二人とも、場の空気を変えざるを得なくなった。
メサイア攻防戦の折、エターナルに味方したジュール隊……いや、エターナルにラクスが乗っていること、そしてイザークの放った「エターナルはザフトの船だ」という言葉を聴き、エターナル援護に回った他のザフト艦達も、現在、謹慎処分の真っ最中である。

「謹慎明けっていつだっけ?」
「まだ一ヶ月以上はあるわね」
「処分、ほんの少し軽くなったんでしょうかねー」

ヤナックがのほほんと言った、まさにその時、

「揃ってるな?」
「はっ!!」

扉が開き、我らが隊長・イザークの登場により、シホが素晴らしい早業で敬礼をした。
ディアッカはいつも思う。彼女の、この変わり身の速さは何なんだろう……と。

「で? 何なのさ、この集合命令は」
「人手不足なだけだ」
『――は?』

ディアッカとヤナックの声が合わさる。
……人手不足??

「この治安激悪の中で、休ませていられる軍人はいない、というのが上の方針だ」

それは、自分達のことを思っての処遇なのか、はたまた本当に、人手不足を解消するためなのか。

「とりあえず、近日中に一人、ザフトレッドが入隊する。主だった任務はそれからだな」
「『赤』か……シホ、同じ赤だからって、新人いびりするなよ?」
「あんたじゃあるまいし」
「その台詞、丸ごと返す」

三ヶ月謹慎しようが、全く変わらぬ二人の関係。それを――これまた全く気にすることなく、イザークは椅子に座って呆然と眺め始めた。

「騒がしい奴らだ」
「でも、無いと寂しいんですよね」

並ぶヤナックは、二人の押し問答を聞きながら、イザークに問いかけた。

「ところで、新しく来る人って……やっぱ、男ですか?」
「いや、女だ」
「――っですってええええ?!」

イザークから放たれた号砲を耳に受け――種割れよろしく、シホは発狂した。





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