僕を呼ぶ声







そしてクルゾフへの不審は、アスランだけではなく、評議員の間でも募っていた。





「カルネア女史、ちょっと良いですか?」

後ろから呼び止められ、カルネアは鬱陶しそうに振り向いた。彼女に声をかけたのは、評議員の一人・アーザン。
カルネアは、彼をあまり良く思ってはいない。

「……手短に済む話か?」
「それは貴女の考え次第だ」

性格の不一致というのもあるが、彼の回りくどい言い方に、どうも好感を持つことが出来ない。これが仕事の話なら我慢して聞くが、もし全く自分に関係の無い話だったら……もう、彼女はどうやってアーザンから逃れるか、瞬時に考えを巡らせ始めることだろう。
だが、彼の話す内容は、そう簡単に切り捨てられるものではなかった。

「議長代理について、どう思う?」
「……言ってる意味が分からん」

呟き、ふいっと顔を背ける。
しかし、それだけ。立ち去ろうとはしない。
彼女の中にも疑惑があるからこそ、立ち去ることが出来ないでいる。

「議長代理とは長い付き合いになる貴女は、今の彼をどう思っているのか……」
「大して長い付き合いではない。ただの同期だ」
「だが、私よりは長い付き合いでしょう?」

アーザンはカルネアよりも三期下の人間だ。発言力も、カルネアより大分低い。なのに今、アーザンは、そんなカルネアに、不躾ともとれる意見をぶつけている。

「議会で決めた『代理』ですし、彼が『代理』を務めることに異論を唱えるつもりも無い。だが彼の行動は、『代理』を決定した時とは、大分違う気がしましてね」
「…………」

確かに、言われるまでもなく、カルネアも感じ取っていた。
明らかに違う。そう、彼は『和』を重んじる人間だった。以前は議長と議会が対立した時、それを仲裁する役目を担ってさえいた彼が、今、自分の我を通そうと躍起になっている。
独断で、重要参考人、アスラン・ザラを釈放させ、ラクス・クラインについても、議会の意見を無視し、審議の方法を決めてしまう始末だ。

「あの方は一体、何を考えているのか……」
「知らん」

アーザンの話――というか、この話題そのものに嫌気が差し、カルネアは踵を返した。
見たくない、との思いもある。旧友を疑い、浮かび上がる一面を見たくない、知りたくない、という感情を。


しかし、これこそ疑っている証ではないか?
信じているなら、彼の言い分など馬鹿げた言いがかりにすらならない、ただのやっかみで済ませられる話ではないのか。アーザンは、頭からクルゾフを否定しているわけでも、異論を唱えているわけでもないのだから。


これを『異議』と捉える事こそ、自分も似たような思いを抱えている証なのでは。


――いや、抱えている。
彼に疑問を感じているからこそ、三日前、議長室に押しかけた。
ラクス・クラインの件で、クルゾフ議長代理に食らいついた。



足が止まる。
アーザンから距離を取ろうとしていたカルネアの足が、無意識に止まってしまう。



「やはり貴女は、私と同じ考えのようだ」
「貴様と同列視される謂れは無い」
「だがお互い、議長代理に異を感じる同士」



カルネアは、見極めることが出来なかった。
この男の言い分を、どれほど受け入れて良いものか。
そもそも彼は、どれだけ信じるに値する人間なのか。


「他にも何人か、議長代理を不審がる人間がいる。我々は、彼の真意を追及しようと思っている」


どうする?
考えても、名案が浮かぶ気配は無い。


「カルネア女史。私と手を組みませんか?」


それは、クルゾフの目を覚まさせる天の救いか、それとも悪魔のお誘いか。

やはりカルネアには、その判断を下すことは出来なかった。





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