僕を呼ぶ声


レイはいまいち、彼女がどういった人間か分かっていない。
キラ・ヤマトの友人で、前大戦の折にアークエンジェルに搭乗している。アスランとも顔見知りであり、以前、ルナマリアがアスランの行動を監視した際、盗撮した写真の中に彼女が写っていた――……レイの中では、これくらいの認識でしかなかった。

この時までは。


「しっかし、ナチュラルにしちゃ美人だな〜」


面白そうにミリアリアを眺めるアネハを、レイは冷ややかな目で見る。
虫唾が走る感覚とは、こういうものを差すのだろうか。

「一時間くらい、貸し出したりしてくれねーかなあ、ライドンのおっさん」
「……下種な考えをするな」
「下種で結構」

アネハは、レイの警告をあっさり無視する。どうやら彼に、レイの言葉を聞く気は無いらしい。
ゆえにレイは、言葉を変えた。

「……貴様の兄は、そんなこと考えるような男ではなかったが?」
「――何が言いたい」

瞬間、アネハの顔が引きつった。
それまで、レイの言葉など聞く耳すら持とうとしなかったアネハが、怒りを露にしている。

「俺と兄貴は違う!」
「だろうな。兄の方がよっぽど優秀だ」
「ッ……!! てめえなんかに――」
「――彼女は渡してもらう」

アネハが冷静さを欠いた瞬間、レイはひどく冷静に行動した。ミリアリアを抱える手をするりと離し、彼女の身体を、自分側に引き寄せる。
ほんの一瞬の出来事に、アネハは呆然としてしまった。

「てっめ……何すんだ!」
「より安全な方法をとっただけだ」

レイは言い切る。


「お前に預けておくより、俺が預かっていた方が安全だろう? しばらくは、俺が預かる」
「――言うじゃねーか。良いのかよ、ライドンのおっさん、怒るぞ?」
「分かって無いな、お前」

苦し紛れのアネハの言葉も、レイにダメージは当てられない。
彼は不敵に笑うと、嘲るように言ってのけた。


「ライドンは、俺のご機嫌取りしか考えて無い」


分かっている。
アネハだって分かっている。
ライドンがレイをどれほど気に入っているか、など――……





*前次#
戻る0

- 45 /189-