冷たい銃声 嫌だった。 本当に、嫌だった。 これ以上、誰が死ぬ姿も、誰を殺す姿も見たくない――そんなシンの、悲しい絶叫。しかしライドンは、その場の雰囲気とは、少々空気の違う反応を見せた。 「……馬鹿げたことを」 鼻で笑い、シンの思いを一蹴する。 「間違ってる、ねえ。まさかお前から、そんな言葉を聞くことになるとは」 「何が言いたいんですか?」 「お前はオーブを焼き、北ユーラシアすら焼いた。なのに今更、間違ってると言われても……」 「俺は、北ユーラシアを焼いてなんか――」 「――焼いただろう」 見に覚えのない言葉に、シンは反論したものの――……すぐさまライドンに切り捨てられた。 ライドンの瞳は、眼差しだけで相手を凍らせられそうなほどの強烈な冷気を放っていて、シンは声を放つことすら出来なくなる。 「インパルスに乗っていたのはお前じゃないか。なのに、デストロイを破壊するどころか、野放しにして……おかげで、一体どれだけの命が消えたと思っている?」 そこまで言われて、シンはライドンの話を理解した。正確に言うと、何時の、何の話をしているのかを把握した、というか。 だがやはり、シンはその批判を甘んじて受けることが出来ない。 何せ、あれに――あの時、デストロイに乗っていたのは―― 「でも……でもあれは、しようが無かったんです。デストロイに乗ってたのは、ステラだったんだ……あの子は、戦いたくもないのに、無理矢理乗せられて――」 「そのせいで、闘う意思も力も持たない人々は、ゴミのように殺されていったというのか? お前の家族のように」 シンは――返す言葉を失った。 ガラガラと、何かが音を立てて崩れていく。 「何を驚いている? それともまさか、この期に及んで、お前が北ユーラシアで取った行動が、大勢の人間を死に至らしめたとは認めない……とでも言うのか?」 ライドンはあざ笑った。 「お前はもう、手を真っ赤に染めたんだ。分かるな? もう、戦うしか生きる術がないと。戦って、争いのない世界を作る――そうしないと、お前に『間違って』殺された人達も浮かばれまい」 「――違う」 それでも、シンは拒絶する。 わざと、争いの無い世界を作るために戦い、たくさんの人間が『間違って』殺された、と――『間違い』の部分を強調し、罪悪感を煽り、こちら側へ連れ込もうとしたライドンは、思わぬ反応に冷や汗を流す。 これまでのシンなら、ライドンの言葉に流されただろうが、最後の最後、あと一歩で手を伸ばす――そんなところで、彼は踏みとどまった。 矛盾を見つけて。 それは、心の矛盾点。 「争いの無い世界って、何ですか?」 一歩、シンはライドンににじり寄る。 「レイに、何をさせる気ですか!!」 街角で、この社屋で、レイが見せたあの表情。 彼の顔はずっと、自分が望んでやっているとは、どうしても思えない苦痛のものだった。 「あいつ、すっげー苦しそうだった! あんな顔、する奴じゃないのに!!」 「お前はレイの、何を知っている?」 逆に、ライドンが問う。 「彼が何者か、お前は知っているのか?」 「クローンだってんだろ? それが――」 「その上、テロメアが短く、長くは生きられない」 ライドンの宣言に、びくりと、シンは身体を震わせた。 |