冷たい銃声



「ミリアリアさん! 先生っ、ミリアリアさんに何を――」
「ちょっと協力して欲しいだけだ。レイ、アネハ、彼女を連れて先に行っててくれ」
「へいへい」

アネハはミリアリアを抱え、いつの間にか到着していたもう一つのエレベーターに乗る。
そして、レイも。

「レイ、待て!」
「シン」

追いかけようとしたシンをライドンが呼び止めた。彼もそのまま留まるつもりは無かったが、ほんの一瞬躊躇したおかげで速度は緩み、エレベーターの扉は、再び目の前で閉じていった。
おかげで倉庫の中は、シンとライドンの二人きり。

「何考えてるんですか、先生……誘拐って……」
「言っただろう? 協力して欲しいだけだ、と。彼女を傷つける気は毛頭無い。いや、傷ついてもらっては困る、と言った方が正しいか……」
「そんなんじゃ、分かりませんよ!!」

シンが吼え、静寂が訪れる。

「……なんでレイが、先生と一緒にいるんですか?」
「俺が助けたんだ。崩落寸前のメサイアから。――レジェンドと共にな」

その瞬間、シンの頭に、数日前に見た街頭ニュースが蘇った。ザフト広報は隠したが、本部が襲撃され、改良型ザクが一機破壊され……そこに、行方不明のレジェンドが関わっている可能性があると、キャスターが言っていて――


「シン。俺と共に来ないか?」


混乱するシンに、ライドンは優しく手を差し伸べた。
ますます、訳が分からなくなる。

「先生……と?」
「そう。俺と、デュランダル議長の目指した世界を作らないか?」


どくん。
冷たく脈動が打たれる。
議長の目指した世界?





――平和のために、争いの無い世界のために――





この魔法の言葉で、シンは戦ってきた。
ロゴスを倒して。
デュランダル議長の意に背く者達に、刃を向けて。
彼の目指した世界を作る、ということは、再び「意に背く者達」に刃を向けること。


当時の記憶が蘇る。
悲しみが、苦しみが、津波のように押し寄せる。


あんなことは、もう……


「……嫌です」

拒絶の言葉は、とても小さく。

「俺はこれ以上……戦いたくない」
「こんな、見掛け倒しの平和じゃない。真の平和を作るためでもか?」
「平和のために、人が死んだり、国を焼いたり……そんなの、間違ってる!!」


*前次#
戻る0

- 41 /189-