冷たい銃声



なんだ? この嫌な空気は。
ようやく追いついたレイは、怒るようにライドンを睨んでいるし、今日初めて見るアネハという男は、ライドンの到着で、レイへの対抗心を押さえ込んだようにも見える。
そして、ライドンは――……

「まさか、シンの到着の方が早かったとは……これもまた、運命かな?」
「きゃっ!」

言いながら、彼は、ミリアリアをアネハの方へと突き飛ばす。

「先生?!」
「ら、ライドン会長? 何を……」
「どうした? ミリアリア・ハウ。何をそんなに驚くのか……気付いているんだろう? 私が何者か。だからこそ、素直に敵の懐に飛び込んだ」
「……敵……?」
「今更知らないフリをしても、遅すぎるぞ?」

本気で分かっていない素振りのミリアリアに、ライドンは呆れてしまった。

「さっき、どこかで会った事は無いか、と訊いてきたのは、君の方じゃないか」
「あれは……貴方が、私を知っていたから……」

不審の眼差しを向け、彼女は続けた。



「自己紹介もして無いのに、貴方、私の名前、呼びましたよね……?」



ハッとライドンは息を呑んだ。
確かに、言っていない。ミリアリアが名を言わなければ、シンが呼んだわけでも無い。なのに、これが初対面にもかかわらず、彼はミリアリアの名を言い当てた。

「そうかそうか、なるほど、それでか。俺はてっきり、君が覚えていて、カマ賭けしてきたんだと思ったよ」
「…………?」

言われても、ミリアリアは答えを導き出せない。
いや、しかし。ライドンの、この企むような顔は、どこかで見たことがある気もする。
これは何時の記憶だろう……必死で思い出そうとする最中、彼は決定的な一言を告げた。


「君は撮っただろう? 私を。私と――グラン・カイストロの秘密のやり取りを」
「!!」

とっさにミリアリアは、あの写真を取り出した。プラントに到着したあの日、シンと出会ったあの日に撮った、ドゴラ頭目、グラン・ガイストロの写真を。
相手の顔は、ピンボケして、しっかり把握は出来ない。しかし、目を凝らせば見えてくる、もう一人の男の顔――

今なら分かる。これは、ライドンだと。

「君がプラントに来てくれて、本当に助かったよ、ミリアリア・ハウ。もし君が姫君の制止をきいていたら、こっちはキラ・ヤマトの誘拐――なんて大博打を打つ羽目になるところだった」
「――キラを?」
「――誘拐??」

ミリアリアとシンが、続けざまにハーモニーを奏でる。
方や友人の名に。方や犯罪の名称に、驚きを隠せない。

「どうしてキラを……それが、私とどう……!!」

恐々と、ライドンを見やる。
頭に描くのは、最悪のシナリオ。


自分――キラ――姫君、と来れば――


「……カガリに、何をさせる気?」
「――?!」


カガリの名に最も早く反応したのは、誰でもないシンだった。
家族を殺されたと、ずっと恨んできた――いや、今も恨んでいるであろうアスハの当主。彼女の名は、シンの意識を、混乱の渦へと落としてくれる。
そんなシンの心境を察することも無く、ライドンは笑った。

「話が早くて助かるよ。だが、君に教える必要は無い」
「そーゆーこと」



――とんっ。
突如、アネハの手がミリアリアの首に触れた。小さく、軽く、少しだけ勢いよく下ろされた手刀は、ミリアリアの意識を簡単に奪い去る。


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