冷たい銃声






今のシンには、普通の事とおかしい事の判別がつかない。
ただ、目の前にレイがいた。その現実が、シンの思考を鈍らせる。


生きていた。
生きていると信じたかった友達が、本当に生きていた。


これで――これで、伝えられる。
形だけの墓前でしか報告できないと思っていたことが、本人に伝えられる。
無意識に、シンの手がポケットに伸びる。
腰から伸びるウエストバック後部――そこにしまわれた、一冊の「手帳」の姿を、手で確認するように。

「レイ!!」

どれだけ階段を下りただろう。固く閉ざされた扉にぶち当たると、シンはそれを、迷わず蹴破った。
ここにいる――と、おかしな確信の下に。

そこは大きな倉庫のような場所。照明もまばらで、暗がりの中、コンテナが散乱している。足音を立てず、静かに足を進めるシンは、数歩とかからず、輝く人影を発見した。
コンテナに隠れるように、背を向けたレイを。


「なぜ、追いかけてきた?」


シンに背を向けたまま、レイは尋ねる。

「なぜ、のこのこと着いてきたんだ」
「だって、お前……」
「おかしいと思わないのか?」

向けられる瞳は、ひどく冷たいものだった。
非難の眼差し。


なぜ?
それはこちらが訊きたい。
ようやく出会えた友人に、どうしてそんな目で見られなくてはならないのか――そう思って、ようやく一つの疑問が生まれた。



「……何でお前、ここに居るんだ?」



ようやく紡がれた問題に、レイは目をそらすだけ。

「どうして……もしかして、ライドン先生に助けられたのか?」
「そういう考え方しか出来ないから、つけ込まれるんだ、お前は」

レイはなおも、厳しい視線をシンに送った。

「もう帰れ。お前の役目は終わった」
「何だよそれ! 役目?? 訳分かんねーこと言ってないで――」
「これ以上は駄目だ。帰れ」

横目でエレベーターを見て、レイは焦り出した。すぐ傍に設置される二つのエレベータ……その片方の降下ランプが、この階に迫っている。

「早く――」
「良いじゃんか、別に。この坊やも巻き込んじゃえば」

レイの声を遮り、コンテナの上から、知らない声が響いた。

「どの道、怪しまれるだけなんだ。引き込めば良いだろ」

言って、オレンジ色の髪をなびかせ、少年が降りてくる。何となく、誰かを思い起こさせる風体の人物は、動いていないもう一つのエレベーターのボタンを押した。

「黙れ、アネハ」
「誰にモノ言ってんだ? お前」

ギロリ、とアネハがレイを睨み上げる。そこに、降下していたエレベーターが到着した。
扉が開き、現れるのはミリアリアとライドン。シンとレイの姿を見つけ、彼女はホッとした様子を見せた。

「シン君! 良かった……会えたのね」
「え、え……」


その瞬間、何故かシンの頬に冷たいものが伝った。


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