冷たい銃声 「……なんで、そんなこと思うの?」 「あいつ……俺のこと見て、逃げたし……」 追いかけている内は、ただ捕まえなければ――それだけだった。 しかしこうやって、頭が冷静さを取り戻せば、考えなくても、レイはシンを避けていることが分かってしまう。 なんせ彼は、追いかけているのがシンだと分かった上で逃げていたのだから。 「死んだと、思ってたんです」 シンの言葉に、ミリアリアは目を見開く。 「戦闘中に、爆発に巻き込まれて、そのまま……戦闘中行方不明って形で、処理されたんです。だけどあいつ……生きてた……」 「……友達?」 「はい」 強く、力強く答えるシン。 「大事な大事な……友達、だけど……」 「逃げられちゃったの、辛い?」 「…………」 ミリアリアに問われ、シンは言葉を返せなかった。 辛い。言われるまでも無く、辛い。辛いと口に出すことすら……シンには痛いことで。 「……もしかしたらあの子も、シン君と同じかもしれないね」 「同じ……?」 「うん。ほら、シン君だって、会う勇気が無い人達、いるでしょ? 大切な人だけど、会うのが怖い……違うかな」 それも一理あるとは思う。しかし、はたして彼は……レイはそういう類の人間だろうか。勇気とか、そんな世界とは無縁の位置にいる気がしてならないが――いや、そうなのかもしれない。シンだって、レイの全てを知っているわけではない。 実際、彼が何を思って行動していたかなど、シンはほとんど知らないのだから。 「会って、話さないと分からないよ?」 言ってミリアリアが、シンの肩をぽんっと叩く。 不思議な感覚だ。たった一言で、たった一つの行動で、彼女はこんなにも、自分に勇気をくれる。 明るい声が、暗闇に落ちそうだった思考を、光の当たる場所まで引き上げてくれる。 何故この人は、こんなにも力を与えてくれるんだろう……そう、考えて。 「……シン?」 その声は、後ろから響いた。見れば、三十代半ばのスーツ姿の男性が、二人の後ろに立っている。 「ああ、やっぱりシンだった。久しぶりだなあ、元気してたか?」 「ライドン先生……?」 思いも寄らぬ人物の出現に、シンの頭は回りきらない。帽子を握りしめながら、現れた男性を――ライドンを凝視している。 「先生……? 学校の先生なの?」 「昔、ね」 ミリアリアはシンに訊いたのだが、答えたのはライドンだった。 「一年ほど、彼の担任やってたんだよ。今は隠居して、ここの会長やってるんだ」 「会長?」 指を差され、その先を見て――ミリアリアは絶句した。 自分達の横に、巨大なビルが聳え立っている。そこは立派なオフィスビル。普通ならこの手のビルには何軒かの会社が入るものなのだが、ここはたった一つの事業所で占拠されている。 プラントでも五本の指に入るほどの大企業、デュッセルカンパニーの本社によって。 「――デュッセルカンパニーの、会長さん?!」 「そこまで驚いてくれると、会長職に就き甲斐あるよ」 ミリアリアの反応に爽やかな笑みを零しながら、ライドンは再び、シンと向き合う。 「それ、大事にしてくれてたんだな」 「会長さんのプレゼントなんですか?」 「シン達が卒業する時、生徒達との繋がりって言うか……記念品みたいのがほしくなってね。全員にネーム入りの帽子を配ったんだ。だから本当に、シンがこれを大事にしてくれて、嬉しい」 「先生……」 シンは目を輝かせ……そして俯く。 そのやり取りを見て、ミリアリアは何となく理解した。どうしてシンが、その帽子を大事にしているのか。 そう、ライドンの言う通り、これは『繋がり』なのだろう。 彼の……思い出の繋がり。 |