冷たい銃声 住宅街で、シンとミリアリアは、とある家の前に佇んでいた。 表札には[ホーク]の文字が描かれている。 ここはルナマリアとメイリンの家。何度も何度も、シンはこの場に訪れた。 何度も何度も、呼び鈴を鳴らそうとした。 現在まで、それは一度も成功していない。 家の前まで来ると、余計に身体が震えてしまう。 けど、二人に詫びたい、と思う気持ちはとても強く、逃げてもまた舞い戻る…… 「…………」 シンは一頻り家を眺めた後、ジャケットの内ポケットからピンク色の携帯を取り出した。 〈可愛い携帯……〉 それを見たミリアリアは――口にこそ出さなかったが――心の中で、大きな違和感を感じていた。 シンとはまるで不釣合いな携帯。どう見ても、男の子が使うような形ではない。 もちろん、彼の携帯ではない。 〈マユ……俺にもう少しだけ、勇気をくれ……〉 願いをかける。 今は亡き妹に、最後の勇気をもらうために。 これまでも彼女は――妹の携帯は、彼の勇気となっていた。眺めては決意を強く持ち、眺めては悲しみを思い出し、争いの無い世界を作ろうと、自分なりに行動して…… いつも通り、妹の声を聞こうと携帯を開ける。そして、留守電メッセージをかけようとして――静かに閉じた。 声を聞かずに、ジャケットの内ポケットにしまう。 大丈夫。もう大丈夫。 隣に、ミリアリアだっている。 シンはゆっくりと指をチャイムに伸ばした。 一度躊躇したものの、それはほんの一瞬だけ。この間同様、指は途中で止まってしまったが、ぎゅっと瞳を閉じ、勢いに任せてボタンを押し込む。 響くチャイムの音は、外まで響いたものの――音沙汰は無い。不思議に思い、もう二回ほど鳴らしてみたが、家主が現れる様子はどこにも無く…… 「留守……かしら」 「――っそだろ……?」 ミリアリアの一言に、シンはその場にへたりこんでしまった。ようやく一歩、勇気を出せたと思ったら、こんなオチが待っていようとは。 気が抜けすぎて、簡単に立ち上がれない。 〈まさか二人とも居ないなんて……やっぱメイリンに連絡取っておいたほうが良かったな……〉 ミリアリアもまた、少し後悔していた。この間――シンと出会った後、彼女はこの家に来ていた。そして、シンの事情をメイリンから全て聞かされている。だからシンに訊くまでも無く、彼の事情は大体知っていたのだ。 〈でも……〉 どんなに近くにいても、それは第三者の意見。やはり実情は、本人に訊かなくては分からないもの。実際、彼が寮を飛び出し、そのまま帰ってこない[理由]は、聞いたもの以外にも存在している。 |